分子同士の間ではたらく、弱い引力を分子間力といいます。
分子間力には、ファンデルワールス力と呼ばれる引力と、水素結合と呼ばれる引力があります。
ファンデルワールス力は、とても弱い引力です。無極性分子より極性分子の方が、ファンデルワールス力はやや強くなります。
水素結合と呼ばれる引力は、一般にファンデルワールス力より強いです。
分子間力で分子同士が近づいて固定され、結晶となった固体を分子結晶といいます。
分子結晶は脆くて軟らかく、電気を通しません。
もくじ
分子間力とは
分子と分子の間ではたらく、ごく弱い引力を分子間力といいます。分子間力には、ファンデルワールス力と呼ばれる引力と、水素結合と呼ばれる引力があります。
ファンデルワールス力
ファンデルワールス力は、何もしなくても、分子と分子の間ではたらいている非常に弱い引力です。
分子では、何もしていなくても、分子内の一部で非常に小さな電荷の偏りができることがあります。このとき近くの他の分子が影響を受けて、他の分子でも非常に小さな電荷の偏りが生じます。
これがとても近くにある分子同士で起こると、ひとかたまりの分子の集まりとして、液体や固体になります。
二酸化炭素 CO2 の分子を例とすると、分子の一部に微小の電荷の偏りができることがあり、近くの分子と引き合います。
こうして分子同士が引き付けあうことで、二酸化炭素の気体を冷却したとき、固体(ドライアイス)になります。(圧力や温度の条件によっては液体になります。)
二酸化炭素は無極性分子でしたが、極性分子では分子が常に電荷の偏りをもっているので、極性分子ではファンデルワールス力がやや大きくなります。
水素結合
極性分子では、ファンデルワールス力がやや大きくなります。つまり分子の極性が大きいと、分子間の引力が大きいと考えられます。
水素原子 H とフッ素原子 F 、酸素原子 O 、窒素原子 N の間の共有結合では、極性が特に大きくなっています。
これは水素原子と、他の 3 つの原子の電気陰性度の差が大きいことからも、確認できます。
電気陰性度の差が大きいので、共有電子対が他の 3 つの原子の方に引き寄せられ、極性が大きくなります。
このように、H-F 、H-O 、H-N の共有結合は、極性が大きいです。そこで特に、これらの結合をもつ分子がたがいに引き合うとき、これを水素結合といいます。
水素結合をもつ分子同士は、(共有結合やイオン結合よりは弱いですが)強い力で引きつけ合います。
水素結合をもつ分子は、フッ化水素 HF 、水 H2O 、アンモニア NH3 などです。
ファンデルワールス力と水素結合をまとめて、分子間力といいます。
分子結晶とは
分子間力で分子同士が近づいて固定され、結晶となった固体を分子結晶といいます。
分子結晶の代表例が、二酸化炭素です。二酸化炭素は極性がないので、弱いファンデルワールス力によって分子同士が固定されています。
結晶を保つ分子間力が弱いので、一般に分子結晶は脆くて軟らかい性質をもちます。また、結晶内に余った電子はないので、電気を通しません。
二酸化炭素の分子結晶であるドライアイスは、分子間力が弱いので、常温で結晶の状態を保つことができず、分子が気体として離れていきます。
ドライアイスはこのように、固体から直接気体になる昇華性があります。
同様に分子結晶であるヨウ素 I2 も、分子間力が弱いので、分子結晶の固体から気体へと昇華する性質があります。
問題演習
確認テスト1
次の文章の空欄に適切な語句を入れましょう。
分子と分子の間には、弱い引力がはたらいています。これを( A )といい、( A )によりできている結晶を( B )といいます。
( C ドライアイス・ダイヤモンド・鉄 )や( D 塩化水素・ヨウ素・ヨウ化水素 )は、( B )です。これらの結晶は、分子同士の引力がとても弱いので、昇華する性質があります。
また、( B )は電気を( E 通し・通さず )、( F 硬く・軟らかく )て脆い特徴があります。
実践問題1(2019追第1問問1)
『固体が分子結晶であるもの』に当てはまるものとして最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
① カリウム ② ナフタレン
③ 硝酸ナトリウム ④ 二酸化ケイ素
(2019年度センター試験 追試験 化学基礎 第1問問1 より一部を引用)
実践問題2(2017追第1問問3)
分子結晶に関する記述として誤りを含むものを、次の①~⑥のうちから一つ選べ。
① 分子が規則正しく配列してできた固体である。
② 通常、イオン結晶と比べて融点が低い。
③ 昇華するものがある。
④ 分子結晶をつくる主要な力は、分子間力である。
⑤ 電気伝導性を示さないものが多い。
⑥ 極性分子は分子結晶にならない。
(2017年度センター試験 追試験 化学基礎 第1問問3 より引用)