酸と塩基の定義

ポイント

一般に酸は、酸味があり、青いリトマス紙を赤く変え、亜鉛などの金属と反応し水素を発生させます。

一般に塩基は、苦味があり、赤いリトマス紙を青く変え、酸と反応して酸の性質を打ち消します。

アレーニウスは、水溶液中で水素イオン H+ を生じさせる物質を酸、水酸化物イオン OH を生じさせる物質を塩基、と定義しました。

ブレンステッドとローリーは、水素イオン H+ を相手に与える物質を酸、水素イオン H+ を相手から受け取る物質を塩基、と定義しました。

酸と塩基

塩化水素(塩酸) HCl や硝酸 HNO3 、硫酸 H2SO4 、酢酸 CH3COOH 、炭酸 H2CO3 などはと呼ばれる物質です。

(塩化水素が水に溶けた水溶液のことを、塩酸といいます。)

酸の一般的な特徴は、酸っぱい味がして、青いリトマス紙を赤く変色させます。また、マグネシウム Mg やアルミニウム Al 、亜鉛 Zn などの金属と反応して、水素 H2 を発生させます。

これに対し、水酸化ナトリウム NaOH や水酸化カリウム KOH 、水酸化カルシウム Ca(OH)2 、アンモニア NH3 などは塩基と呼ばれる物質です。

なお、アルカリやアルカリ性といわれる物質は、塩基にあたります。アルカリとは、水に溶ける塩基のことです。アルカリやアルカリ性のことを、これからは塩基や塩基性として考えましょう。

塩基の一般的な特徴は、苦い味がして、赤いリトマス紙を青く変色させます。また酸と反応して、酸の性質を打ち消します。

アレーニウスの酸・塩基の定義

19 世紀から 20 世紀にかけて活躍した科学者アレーニウスアレニウスとも書きます)は、酸と塩基について次のように定義しました。

「水溶液中で電離して水素イオン H+ を生じさせる物質を酸、水溶液中で電離して水酸化物イオン OH を生じさせる物質を塩基とする。」

塩酸や硫酸といった酸や、水酸化ナトリウムや水酸化カルシウムといった塩基は、水溶液中で電離してイオンになります。このとき、アレーニウスの定義の通り、酸からは水素イオンが、塩基からは水酸化物イオンが生じます。

塩化水素 1 分子からは水素イオン H+ が 1 個、硫酸 1 分子からは水素イオン H+ が 2 個生じています。

水酸化ナトリウムからは水酸化物イオン OH が 1 個、水酸化カルシウムからは水酸化物イオン OH が 2 個生じています。

ブレンステッド・ローリーの酸・塩基の定義

アレーニウスの定義では、物質を水に溶かした水溶液の状態でしか、酸と塩基について考えることができません。

水溶液以外でも酸と塩基について考えたいので、20 世紀に活躍した科学者ブレンステッドローリーが、さらに範囲を広くとって酸と塩基を定義しました。

水素イオン H+ を他の物質に与える物質を酸水素イオン H+ を他の物質から受け取る物質を塩基とする。」

ブレンステッド・ローリーの定義によって、水酸化物イオンに相当する原子団をもたないアンモニアのような物質も、塩基として考えることができます。

アンモニアが水に溶けると、水から水素イオン H+ を 1 個受け取り、アンモニウムイオン NH4+ となります。

また水がない状態でも、酸と塩基の反応について考えることができます。

濃アンモニア水と塩酸を近づけると、気体のアンモニア分子と気体の塩化水素分子が反応し、塩化アンモニウム NH4Cl の固体が生成し、白煙として観察できます。

アレーニウスの定義では、水溶液中で酸が水素イオン H+ を生じさせます。

実際はこの H+ は単独で存在せず、水溶液中では水分子と配位結合して、オキソニウムイオン H3O+ となっています

ですから、アレーニウスの酸でも実際はオキソニウムイオンが生成しており、ブレンステッド・ローリーの酸でオキソニウムイオンが生じるのと同じ結果になっています。

酸にも塩基にもなる物質

ブレンステッド・ローリーの定義に従うと、水などの物質は、酸にも塩基にもなります。

塩酸や硫酸が相手になると、水は塩基として振る舞います。アンモニアが相手なら、水は酸となります。

ブレンステッド・ローリーの定義では、酸と塩基は水素イオンを与えるか受け取るかで決まります。つまり相手の物質との関係で決まる、相対的な概念といえます。

問題演習

確認テスト1

代表的な酸と塩基を示した表を完成させましょう。

化学式塩基化学式
塩化水素   HCl水酸化ナトリウムNaOH
硝酸KOH     
CH3COOH  アンモニア
硫酸水酸化カルシウム
炭酸
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塩化水素HCl水酸化ナトリウムNaOH
硝酸HNO3水酸化カリウムKOH
酢酸CH3COOHアンモニアNH3
硫酸H2SO4水酸化カルシウムCa(OH)2
炭酸H2CO3

確認テスト2

アレーニウスの定義に従って、以下の化学反応式の物質を酸と塩基に分類しましょう。

1. NaOH  →  Na+ + OH

2. HCl  →  H+ + Cl

3. H2SO4  →  2 H+ + SO42-

4. Ca(OH)2  →  Ca2+ + 2 OH

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酸: 2. HCl 、3. H2SO4    塩基: 1. NaOH 、4. Ca(OH)2

確認テスト3

ブレンステッド・ローリーの定義によれば、赤字の化合物は酸と塩基のどちらになるか、考えましょう。

1. NH3 + HCl  →  NH4Cl  (NH4+ と Cl のイオン結晶)

2. HCl + H2O  →  H3O+ + Cl

3. H2SO4 + 2 H2O  →  2 H3O+ + SO42-

4. NH3 + H2O  →  NH4+ + OH

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1. H+ を与えるので酸

2. H+ を与えるので酸

3. H+ を受け取るので塩基

4. H+ を与えるので酸

実践問題1(2018追第2問問3)

次の反応ア~オのうち、水が酸としてはたらいている反応はどれか。正しく選択しているものを、下の①~⑤のうちから一つ選べ。

  HCl + H2O  →  H3O+ + Cl 

  HNO3 + H2O  →  H3O+ + NO3

  CH3COO + H2O  ⇄  CH3COOH + OH

  CH3COOH + H2O  ⇄  H3O+ + CH3COO

  CO32- + H2O  ⇄  HCO3 + OH

① ア、イ    ② ウ、オ    ③ エ、オ

④ ア、イ、エ    ⑤ ウ、エ、オ

(2018年度センター試験 追試験 化学基礎 第2問問3 より引用)

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正解 2

水が酸としてはたらくということは、化学反応式の左辺にある H2O が相手に H+ を与えて、右辺で OH が生成していることになります。

左辺の H2O が相手に H+ を与えて自身が OHとなっているのは、ウとオです。

また、化学反応式で使われている ⇄ は、化学反応が左から右、あるいは右から左のどちらにも進むことを示しています。

( → のときは、化学反応が左から右だけに進み、反応物から生成物が生じます。)

ただし本問では、特に気にすることなく、左辺の水 H2O が H+ を相手に与えるかどうかだけを考えれば解けます。

ア × H2O は塩化水素 HCl から水素イオン H+ を受け取っているので、塩基としてはたらいています。

イ × H2O は硝酸 HNO3 から水素イオン H+ を受け取っているので、塩基としてはたらいています。

ウ 〇 H2O は水素イオン H+ を相手(酢酸イオン CH3COO)に与えているので、酸としてはたらいています。

エ × H2O は酢酸 CH3COOH から水素イオン H+ を受け取っているので、塩基としてはたらいています。

オ 〇 H2O は水素イオン H+ を相手(炭酸イオン CO32-)に与えているので、酸としてはたらいています。

実践問題2(2015本第2問問4)

次の反応Ⅰおよび反応Ⅱで、下線を付した分子およびイオン( ad )のうち、酸としてはたらくものの組合せとして最も適当なものを、下の①~⑥のうちから一つ選べ。

① a と b    ② a と c    ③ a と d

④ b と c    ⑤ b と d    ⑥ c と d

(2015年度センター試験 本試験 化学基礎 第2問問4 より引用)

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正解 4

化学反応式で使われている ⇄ は、化学反応が左から右、あるいは右から左のどちらにも進むことを示しています。

( → のときは、化学反応が左から右だけに進み、反応物から生成物が生じます。)

本問では、下線を付けた分子およびイオンが反応物となって、生成物へと反応が進むときに酸としてはたらくかを確認します。

例えば下線 a の H2O では、反応が左から右の → で進むときに、H+ を与えるのか受け取るのかを確かめます。

下線 a の H2O は H+ を受け取り、下線 b の H3O+ となるので塩基だとわかります。

同様に下線 b の H3O+ では、反応が右から左の ← で進むときに、H+ を与えるのか受け取るのかを確かめます。

下線 b の H3O+ は H+ を与えて、下線 a の H2O となるので酸だとわかります。

反応Ⅰ

下線 a の H2O は、酢酸 CH3COOH から水素イオン H+ を受け取るので塩基です。

下線 b の H3O+ は、酢酸イオン CH3COO に水素イオン H+ を与えるので酸です。

反応Ⅱ

下線 c の H2O はアンモニア NH3 に水素イオン H+ を与えるので酸です。

下線 d の OH はアンモニウムイオン NH4+ から水素イオン H+ を受け取るので塩基です。