水素イオン濃度とpH

ポイント

1 価の酸の水素イオン濃度 [ H+ ] は、その酸のモル濃度と電離度の積となります。

1 価の塩基の水酸化物イオン濃度 [ OH ] は、その塩基のモル濃度と電離度の積となります。

酸性の強さを示す指標として、pH (水素イオン指数)という量を定め、次のように表します。

$$[H^+] = 1 × 10^{-pH} mol/L$$

pH は次のようにも表せます。

$$pH = -\log_{10}[H^+]$$

純粋な水では [ H+ ] と [ OH ] は等しく、25℃ でモル濃度はそれぞれ 1.0 × 10-7 mol/L となります。

温度が一定ならば、その温度で [ H+ ] と [ OH ] の積は一定となります。[ H+ ] と [ OH ] の積を水のイオン積といい、KW で表します。

25℃の水のイオン積  KW = [ H+ ] [ OH ] = 1.0 × 10-14 (mol/L)2

pH = 7 のとき、言い換えると [ H+ ] = 1.0 × 10-7 mol/L のとき、水溶液は中性です。

pH < 7 のとき、言い換えると [ H+ ] > 1.0 × 10-7 mol/L のとき、水溶液は酸性です。

pH > 7 のとき、言い換えると [ H+ ] < 1.0 × 10-7 mol/L のとき、水溶液は塩基性です。

水溶液の pH が変化すると、それに応じて変色する物質を pH 指示薬といい、色が変わる範囲を変色域といいます。

水素イオン濃度

アレーニウスの酸の定義では、水溶液中で電離して水素イオン H+ を生じる物質が酸でした。またブレンステッド・ローリーの定義では、H+ を相手に与える物質が酸でした。

さらに塩酸や硫酸のように、電離度が 1 に近く、水溶液中でほぼすべてが電離して H+ を生じる酸が強酸でした。

このように、水素イオン H+ が水溶液中にたくさんある状態が酸性である、とイメージできます。

塩基性についても同じように考えられます。

アレーニウスの塩基の定義では、水溶液中で電離して水酸化物イオン OH を生じる物質が塩基でした。

ブレンステッド・ローリーの塩基の定義では、H+ を受け取る物質が塩基でした。この定義でもアンモニアのように、H+ を受け取ることで水が電離してOH が生じていました。

NH3 + H2O  →  NH4+ + OH

さらに水酸化ナトリウムのように、電離度が 1 に近く、水溶液中でほぼすべてが電離して OH を生じる塩基が強塩基でした。

このように、水酸化物イオン OH が水溶液中にたくさんある状態が塩基性である、とイメージできます。

まとめると、水溶液中の水素イオン濃度 H+ や水酸化物イオン濃度 OH を調べると、その水溶液の液性(酸性や塩基性といった性質)を考えることができます。

水素イオン濃度の計算

水溶液中の水素イオン濃度 H+ を調べれば、酸性の強さがわかります。そこで、これを計算してみましょう。

その前に、表記を簡単にするために、溶液中の物質のモル濃度を [ ] で表すことに決めます。例えば、A という物質の溶液中のモル濃度は [ A ] のように表します。

[ A ] と書かれていれば、A のモル濃度 mol/L を意味します。

同様に、[ H+ ] と書かれていれば、溶液中の水素イオンのモル濃度を示しています。[ OH ] ならば、水酸化物イオンのモル濃度です。

[ HCl ] は溶液中の塩化水素のモル濃度、[ Cl ] は塩化物イオンのモル濃度、[ CH3COOH ] は酢酸のモル濃度、[ CH3COO ] は酢酸イオンのモル濃度のように、なんでも簡単に表せます。

電離度とは、酸(または塩基)が溶液中で電離している割合なので、酸(塩基)のモル濃度に電離度をかけると、水素イオン濃度 H+ が求められます

例えば塩酸 HCl は、以下のように電離するので、

HCl  →  H+ + Cl

塩酸のモル濃度が 1 mol/L でその電離度が 0.99 だとすると、H+ のモル濃度 [ H+ ] は

$$[H^+] = 1 mol/L × 0.99 = 0.99 mol/L$$

となります。

1 L の水に 1 mol の塩化水素を溶かしたとき、電離度が 0.99 ならば [ H+ ] = 0.99 mol/L となる模式図が下になります。

弱酸である酢酸 CH3COOH は、以下のように電離するので、

CH3COOH  →  CH3COO + H+

酢酸のモル濃度が 1 mol/L でその電離度が 0.01 だとすると、H+ のモル濃度 [ H+ ] は

$$[H^+] = 1 mol/L \times 0.01 = 0.01 mol/L$$

となります。

1 L の水に 1 mol の酢酸を溶かしたとき、電離度が 0.01 ならば [ H+ ] = 0.01 mol/L となる模式図が下になります。

塩基が電離して水酸化物イオンが生じるときも、塩基のモル濃度と電離度の積から、OH のモル濃度が計算できます

0.1 モルのアンモニア NH3 を 1 L の水に溶かしたとき、電離度が 0.01 だとすると、[ OH ] は NH3 のモル濃度と電離度の積から求められます。

アンモニア水溶液は次のように、一部の NH3 が電離します。

NH3 + H2O  →  NH4+ + OH

アンモニアは 1 価の弱塩基なので、 NH3 が 1 分子電離すると、 1 個の OH が生じます。0.1 モルのアンモニア NH3 を 1 L の水に溶かしたとき、モル濃度は 0.1 mol/L なので、

$$[ OH^-] = 0.1 mol/L × 0.01 = 0.001 mol/L$$

水酸化物イオン濃度は 0.001 mol/L と計算できます。

pH(水素イオン指数)

酸性や塩基性の強さを示す水素イオン濃度は、幅広い値をとります。そこで簡単な指標として、pH (水素イオン指数)という量を定めました。

pH は下のように表されます。

$$[H^+] = 1 × 10^{-pH} mol/L $$

別の表現としては

$$pH = -\log_{10}[H^+]$$

となります。

実際に pH を計算してみましょう。

塩酸のモル濃度が 0.1 mol/L のとき、この電離度を 1 とすると、pH はいくつでしょうか。まず、[ H+ ] を求めます。

[ H+ ] = 0.1 mol/L × 1 = 0.1 mol/L

モル濃度と電離度の積から、水素イオン濃度は 0.1 mol/L となります。

$$0.1 = 1 × 10^{-pH}$$

となるので、0.1 = 10-1 ですから、pH は 1 と求められます。

例題:0.1 mol/L の酢酸(電離度 0.01 )の pH

酢酸のモル濃度が 0.1 mol/L のとき、この電離度を 0.01 とすると、pH はいくつでしょうか。まず、[ H+ ] を求めます。

[ H+ ] = 0.1 mol/L × 0.01 = 0.001 mol/L

モル濃度と電離度の積から、水素イオン濃度は 0.001 mol/L となります。

$$0.001 = 1 × 10^{-pH}$$

となるので、0.001 = \(\frac{1}{10^{3}}\) = 10-3 ですから、pH は 3 と求められます。

水のイオン積

水はほとんど電離しませんが、ごくわずかには電離しています。このごくわずかに電離しているイオンの様子を反応式で表すと、

H2O → H+ + OH

となります。

また逆の方向に反応が進んで、H+ と OH から水分子ができることもあります。

H+ + OH → H2O

これら両方向の反応を表すのに、矢印を 2 つ重ねて

H2O ⇄ H+ + OH

と書くことがあります。

純粋な水では [ H+ ] と [ OH ] は等しく、25℃ でモル濃度はそれぞれ 1.0 × 10-7 mol/L となります。

また温度が一定ならば、その温度では [ H+ ] と [ OH ] の積は常に一定となります。[ H+ ] と [ OH ] の積を水のイオン積といい、KW で表します。

25℃の水のイオン積  KW = [ H+ ] [ OH ] = 1.0 × 10-14 (mol/L)2

単位はモル濃度を 2 回かけているので、( mol / L ) 2 となります。

pH と水溶液の液性

[ H+ ] と [ OH ] の積の値が一定という性質は、とても役に立ちます。計算で [ H+ ] か [ OH ] のどちらかがわかれば、もう一方のモル濃度もすぐに求められます

また、水溶液の液性(酸性・中性・塩基性)の判別も容易にできます。

中性(pH = 7)

まず、純粋の水は、25℃ で [ H+ ] = [ OH ] = 1.0 × 10-7 mol/L となります。この状態が中性です。

[ H+ ] = 1.0 × 10-7 mol/L のとき、pH を求めましょう。

$$[H^+] = 1 × 10^{-pH} mol/L$$

ですから、1.0 × 10-7 mol/L = 1 × 10-pH となるので、

pH = 7 です。

つまり、pH が 7 ならば、その水溶液は中性です。

酸性(pH < 7)

酸性ならば、中性より [ H+ ] の濃度は高いので、pH の値は小さくなります。

例えばモル濃度が 0.1 mol/L で電離度が 1 の塩酸は、pH が 1 となります。

[ H+ ] = 0.1 mol/L × 1 = 0.1 mol/L ですから、

$$0.1 = 1 × 10^{-pH}$$

となるので、0.1 = 10-1 より、pH は 1 です。

このように、pH < 7( [ H+ ] > 10-7 mol/L )のとき、水溶液は酸性です。

塩基性(pH > 7)

塩基性ならば、中性より [ OH ] の濃度は高いので、pH の値は大きくなります。

例えば、0.1 モルのアンモニア NH3 を 1 L の水に溶かしたとき、電離度が 0.01 だとすると、

[ OH ] = 0.001 mol/L = 1.0 × 10-3 mol/L となります。

水のイオン積を KW = [ H+ ] [ OH ] = 1.0 × 10-14 (mol/L)2 とすると、

$$[ H^+ ] = \frac{Kw}{[OH^-]} = \frac{1.0 × 10^{-14}(mol/L)^2}{1.0 × 10^{-3}mol/L} = 1.0 × 10^{-11}mol/L$$

ですから、このアンモニア水溶液の pH は 11 です。

このように、pH > 7( [ H+ ] < 10-7 mol/L )のとき、水溶液は塩基性です。

pH 指示薬

水溶液の pH が変化すると、それに応じて変色する物質を pH 指示薬といいます。pH 指示薬の色が変わる pH の範囲を、その指示薬の変色域といいます。

代表的な指示薬には、メチルオレンジ(変色域 pH 3.1 ~ 4.4 )ブロモチモールブルー(変色域 pH 6.0 ~ 7.6 )フェノールフタレイン(変色域 pH 8.0 ~ 9.8 )があります。

水溶液に pH 指示薬を加えて、水溶液の色の変化を観察することで、pH の変わっていく様子を確認できます。

メチルオレンジは、pH 3.1 より酸性側で赤色を示し、pH が 3.1 より大きくなるとオレンジ色に変化し、pH 4.4 より塩基性側で黄色を示します。

ブロモチモールブルーは、pH 6.0 より酸性側で黄色を示し、中性付近で緑色となり、pH 7.6 より塩基性側で 青色を示します。

フェノールフタレインは、pH 8.0 より酸性側では無色です。pH 8.0 より塩基性側になるとわずかに赤くなり、pH 9.8 より塩基性側で赤色を示します。

変色域は文献によって多少異なり、実際の実験でも上の数値は少しずれることがあります。

問題演習

確認テスト1

0.1 mol/L の水酸化ナトリウム NaOH 水溶液があるとき、電離度 1 として以下の問題を考えてみましょう。

  1. NaOH が電離する化学反応式はどう書けますか。
  2. [ OH ] はいくつですか。
  3. pH はいくつですか。ただし、Kw = 1.0 × 10-14 (mol/L)2 とします。
正解を見る

1. NaOH → Na+ + OH

2. NaOH は 1 価の塩基です。

NaOH 水溶液のモル濃度が 0.1 mol/L で、電離度が 1 なので、

[ OH ] = 0.1 mol/L × 1 = 0.1 mol/L

3. [ OH ] = 0.1 mol/L = 10-1 mol/L なので、

$$[ H^+ ] = \frac{Kw}{[OH^-]} = \frac{1.0 × 10^{-14}(mol/L)^2}{1.0 × 10^{-1}mol/L} = 1.0 × 10^{-13}mol/L$$

したがって pH = 13

確認テスト2

0.05 mol/L の酢酸 CH3COOH 水溶液があるとき、電離度 0.02 として以下の問題を考えてみましょう。

  1. CH3COOH が電離する化学反応式はどう書けますか。
  2. [ H+ ] はいくつですか。
  3. pH はいくつですか。
正解を見る

1. CH3COOH → CH3COO + H+ 

2.  CH3COOH は 1 価の酸です。

CH3COOH 水溶液のモル濃度が 0.05 mol/L で、電離度が 0.02 なので、

[ H+ ] = 0.05 mol/L × 0.02 = 0.001 mol/L

3. [ H+ ] = 0.001 mol/L = 10-3 mol/L なので、pH = 3

実践問題1(2016追第2問問5)

0.020 mol/L の水酸化ナトリウム水溶液 50 mL を純水で希釈して 100 mL とした。この水溶液の pH はいくらか。最も適当な数値を、次の①~⑦のうちから一つ選べ。

① 2    ② 4    ③ 6    ④ 7

⑤ 8    ⑥ 10    ⑦ 12

(2016年度センター試験 追試験 化学基礎 第2問問5 より引用)

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正解 7

直感的に、希釈後の水酸化ナトリウム水溶液の濃度は暗算できます。

0.020 mol/L の水酸化ナトリウム水溶液 50 mL を純水で希釈して 100 mL としたので、2 倍に希釈したことになります。

2 倍に希釈したので、モル濃度は 2 分の 1 の 0.010 mol/L となります。

直感でも求められますが、ここでは計算してみましょう。

0.020 mol/L の水酸化ナトリウム NaOH 水溶液 50 mL に含まれる NaOH の物質量は

0.020[mol/L] × \(\frac{50}{1000}\)[L] = 0.0010[mol]

この水溶液を希釈して 100 mL としているので、希釈後の NaOH 水溶液のモル濃度は

\(\frac{0.0010[mol]}{100[mL]}\) × 1000[mL/L] = 0.010[mol/L]

希釈後の NaOH 水溶液のモル濃度が求まりました。

NaOH 水溶液は 1 価の強塩基で、電離度は 1 と考えられます。

NaOH → Na+ + OH

と電離します。

これより水酸化物イオン濃度 [OH] = 0.010[mol/L] となるので、

水のイオン積 Kw = [H+] [OH] = 1.0 × 10-14[mol2/L2] より

[H+] = 1.0 × 10-12[mol/L] となります。

[H+] = 10-pH と定義されるので、希釈後の水溶液の pH は 12 です。

実践問題2(2018追第2問問5)

酸と塩基に関する記述として誤りを含むものを、次の①~④のうちから一つ選べ。

① 強酸を純水で希釈しても、pH が 7 より大きくなることはない。

② [ H+ ] = 1.0 × 10-x mol/L のとき、pH は x である。

③ 0.010 mol/L の塩酸と 0.010 mol/L の硫酸の水素イオン濃度は等しい。

④ 水酸化カリウムは 1 価の強塩基である。

(2018年度センター試験 追試験 化学基礎 第2問問5 より引用)

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正解 3

1 〇 純水は中性であり pH = 7 なので、純水中の水素イオン濃度は

[ H+ ] = [ OH] = 1.0 × 10-7 mol/L

です。

強酸を純水で希釈していくと、水素イオン濃度は 1.0 × 10-7 mol/L に近づきます。

強酸を純水で希釈しても、中性を超えて塩基性になることはありません。

2 〇 pH の定義は

$$[H^+] = 1 × 10^{-pH}[mol/L]$$

です。

3 × 0.010 mol/L の塩酸は 1 価の強酸でほぼ電離するので、電離度を 1 とすると

[H+] = 0.010 mol/L × 1 = 1.0 × 10-2 mol/L です。

0.010 mol/L の硫酸は 2 価の強酸で、ほとんど完全に電離します。

水素イオン H+ は、硫酸 1 分子から 2 つ生成するので、電離度をほぼ 1 とすると

[H+] ≒  0.010 mol/L × 2 × 1 =  2.0 × 10-2 mol/L です。

このように同濃度の塩酸と硫酸では、硫酸が 2 価の強酸であることから、硫酸の水素イオン濃度の方が高くなります。

4 〇 KOH は 1 価の強塩基です。(アルカリ金属の水酸化物は強塩基です。)

実践問題3(2020追第2問問4)

次に示す水溶液を pH の小さい順に並べたものはどれか。最も適当なものを、下の①~⑥のうちから一つ選べ。

 0.010 mol/L 塩酸

 0.010 mol/L 塩酸を水で 10 倍に希釈したもの

 0.10 mol/L 酢酸水溶液(電離度 0.020 )

①    ②    ③ 

④    ⑤    ⑥ 

(2020年度センター試験 追試験 化学基礎 第2問問4 より引用)

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正解 2

pHは、[H+] = 1.0 × 10-pH mol/L と定義されます。

水素イオン濃度が高いほど、pHは小さくなります。

塩酸は強酸なので、水溶液中では完全に電離します。そのため、

アの水素イオン濃度は 0.010 mol/L = 1.0 × 10-2 mol/L (pH = 2)

イの水素イオン濃度は 0.0010 mol/L = 1.0 × 10-3 mol/L (pH = 3)です。

酢酸は弱酸なので、水溶液中の一部の酢酸分子だけが電離して、水素イオンを生成します。

CH3COOH ⇄ CH3COO + H+

ウは電離度 0.020 なので、

水素イオン濃度は 0.10 × 0.020 = 0.0020 = 2.0 × 10-3 mol/L (pH ≒ 2.7)

水素イオン濃度が高いと pH は小さいので、pH の小さい順に ア < ウ < イ となります。

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