滴定曲線

ポイント

中和滴定を行うとき、溶液の pH の変化を記録した曲線を中和滴定曲線といいます。また、酸と塩基の中和反応がちょうど終わる点を中和点といいます。

滴定曲線の中和点の pH 付近に変色域がある指示薬を選ぶと、中和点を知ることができます。

滴定曲線

中和滴定を行うとき、溶液の pH の変化を記録した曲線を中和滴定曲線といいます。また、酸と塩基の中和反応がちょうど終わる点を中和点といいます

滴定曲線の例として、酸をコニカルビーカーに入れ、ビュレットから塩基を滴下して、中和点を調べて pH を記録します。

この場合、コニカルビーカーの中の溶液の pH を測っているので、滴下を始める前は酸性で pH は小さい値です。塩基の滴下を始めると、徐々に pH は大きくなります

中和点に近づくと、急激な pH の変化が起こります。

ビュレットから 1 滴、2 滴と落としたとき、pH が非常に大きく動いた点が中和点です。このときのビュレットの目盛りを読み取ります。

中和点がわかれば実験は終了ですが、そのまま塩基を滴下し続けたら、変化は緩やかになりますが pH は大きくなっていきます。

塩酸に水酸化ナトリウム水溶液を加えた滴定曲線( Wikipedia からの引用)の図を見ます。縦軸が溶液の pH の値で、横軸が加えた水酸化ナトリウム水溶液の体積です。

はじめは塩酸だけなので、pH = 1 と小さいです。水酸化ナトリウム水溶液を加えていくと、緩やかに pH が大きくなることがわかります。

そして水酸化ナトリウム水溶液の滴下量が 10 mL に近づくと、滴定曲線が急激に動いて、pH が 3 から 11くらいまでほとんど垂直に変化しています。

この急激な pH の変化がある点が中和点です。そのまま水酸化ナトリウム水溶液の滴下を続けた場合は、pH は穏やかに大きくなっていきます。

ウィキペディア(Wikipedia)より、項目「中和滴定曲線」0.1mol/l塩酸10mlを0.1mol/l水酸化ナトリウムで滴定のグラフから引用

逆の例として、塩基をコニカルビーカーに入れ、ビュレットから酸を滴下した場合を考えます。

この場合は、はじめの pH は大きい値で、酸を滴下することで PH は徐々に小さくなります。中和点の前後で pH は大きく酸性側に動きます。

中和点を過ぎても酸の滴下を続けると、緩やかに pH は小さくなっていきます。

指示薬

中和滴定曲線を見るとわかるように、中和点で曲線は垂直に近い形になります。この大きな pH の変化を読み取れるような指示薬を選んで、溶液に加えて実験します。

滴定曲線の中和点の pH 付近に変色域がある指示薬ならば、大きな pH の変化で速やかに変色して、中和点を知ることができます

中和滴定でよく使われる指示薬に、メチルオレンジフェノールフタレインがあります。

強酸と強塩基の中和滴定では、メチルオレンジとフェノールフタレインのどちらも使用できます。

弱酸と強塩基の中和滴定で使われる指示薬はフェノールフタレインで、強酸と弱塩基の中和滴定で使われるのはメチルオレンジです。

実際に滴定曲線を見ながら、確認しましょう。

強酸と強塩基の滴定曲線

強酸に強塩基を加える中和滴定の例として、塩酸と水酸化ナトリウム水溶液の滴定曲線を考えます。

モル濃度が 0.1 mol/L の塩酸 10 mL に、モル濃度 0.1 mol/L の水酸化ナトリウム水溶液を滴下していきます。

下のグラフのように、pH が 3 ~ 11 付近で滴定曲線が垂直に近い形になっています。この範囲に変色域がある指示薬を選ぶと、中和点を知ることができます。

ウィキペディア(Wikipedia)より、項目「中和滴定曲線」0.1mol/l塩酸10mlを0.1mol/l水酸化ナトリウムで滴定のグラフを引用し改変

弱酸と強塩基の滴定曲線

弱酸に強塩基を加える中和滴定の例として、酢酸と水酸化ナトリウム水溶液の滴定曲線を考えます。

モル濃度が 0.1 mol/L の酢酸 10 mL に、モル濃度 0.1 mol/L の水酸化ナトリウム水溶液を滴下していきます。

酢酸の電離度は小さいので、滴定を始める前の pH は約 3 です。強塩基である水酸化ナトリウム水溶液を加えると、溶液の pH は大きくなります。

中和点は pH = 7 より塩基性側にずれます。これは中和点で溶液が塩基性になるためです。

酢酸と水酸化ナトリウムの中和では、塩として酢酸ナトリウムが生成します。

CH3COOH + NaOH → CH3COONa + H2O

酢酸ナトリウムは弱酸と強塩基の塩であり、これを水に溶かすと塩基性を示します。中和点の溶液は酢酸ナトリウム水溶液になっているので、中和点ではやや塩基性になります。

そのため、やや塩基性の中和点付近で、滴定曲線が垂直の形に近くなります。この範囲に変色域がある指示薬は、フェノールフタレインです。

酢酸と水酸化ナトリウムの滴定曲線は、下のグラフのようになります。

ウィキペディア(Wikipedia)より、項目「中和滴定曲線」0.1mol/l酢酸10mlを0.1mol/l水酸化ナトリウムで滴定のグラフを引用し改変

強酸と弱塩基の滴定曲線

強酸に弱塩基を加える中和滴定の例として、塩酸とアンモニア水溶液の滴定曲線を考えます。

モル濃度が 0.1 mol/L の塩酸 10 mL に、モル濃度 0.1 mol/L のアンモニア水溶液を滴下していきます。

塩酸は強酸で 0.1 mol/L なので、滴定を始める前の pH は 1 です。弱塩基であるアンモニア水溶液を加えると、溶液の pH は徐々に大きくなります。

中和点は pH = 7 より酸性側にずれます。これは中和点で溶液が酸性になるためです。

塩酸とアンモニアの中和では、塩として塩化アンモニウムが生成します。

HCl + NH3 → NH4Cl

塩化アンモニウムは強酸と弱塩基の塩であり、これを水に溶かすと酸性を示します。中和点の溶液は塩化アンモニウム水溶液になっているので、中和点ではやや酸性になります。

そのため、やや酸性の中和点付近で、滴定曲線が垂直の形に近くなります。この範囲に変色域がある指示薬は、メチルオレンジです。

塩酸とアンモニア水溶液の滴定曲線は、下のグラフのようになります。

ウィキペディア(Wikipedia)より、項目「中和滴定曲線」0.1mol/l塩酸10mlを0.1mol/lアンモニア水で滴定のグラフを引用し改変

問題演習

確認テスト1

次の文章は、食酢の中和滴定実験の手順を示しています。操作で使う器具名に誤りがあるので、見つけて正しましょう。

食酢に含まれる酢酸のモル濃度を調べるため、水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和滴定を行いました。

食酢をこまごめピペットで 10 mL はかりとり、メスシリンダーに入れました。蒸留水でメスシリンダー内の食酢を 100 mL に希釈しました。

希釈した食酢をこまごめピペットで 10 mL はかりとり、コニカルビーカーに入れました。ビュレットから 0.10 mol/L の水酸化ナトリウム水溶液をコニカルビーカーに滴下し、中和滴定したところ、4.86 mL で中和点に達しました。

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こまごめピペットでは正確な体積をはかれないので、ホールピペットを用います。

メスシリンダーでは、一定の正確な体積の溶液に希釈することはできません。この目的では、メスフラスコを使用します。

確認テスト2

確認テスト 1 の実験では、食酢中の酢酸のモル濃度はいくらになりますか。小数点以下 2 桁まで計算してみましょう。

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食酢中の酢酸のモル濃度を、X mol/L とします。

食酢を 10 mL はかりとり、100 mL に希釈したので、希釈後の濃度は \(\frac{X}{10}\) mol/L です。

酢酸は 1 価の酸で、希釈した溶液 10 mL を中和滴定しています。

滴定する塩基は、1 価の強塩基で 0.10 mol/L の水酸化ナトリウム水溶液です。これを 4.86 mL 滴下したとき、中和点に達しました。

中和点で水素イオン H+ と水酸化物イオン OH の物質量は等しくなります。これを示したのが下の式です。

$$1 × \frac{X}{10} × \frac{10}{1000} = 1 × 0.10 × \frac{4.86}{1000}$$

これを解くと X = 0.486

小数点以下 2 桁として、求める食酢中の酢酸のモル濃度は 0.49 mol/L です。

実践問題1(2020本第2問問3)

水溶液 A 150 mL をビーカーに入れ、水溶液 B をビュレットから滴下しながら pH の変化を記録したところ、図 1 の曲線が得られた。水溶液 A および B として最も適当なものを、下の①~⑨のうちから一つ選べ。

① 0.10 mol/L 塩酸

② 0.010 mol/L 塩酸

③ 0.0010 mol/L 塩酸

④ 0.10 mol/L 酢酸水溶液

⑤ 0.010 mol/L 酢酸水溶液

⑥ 0.0010 mol/L 酢酸水溶液

⑦ 0.10 mol/L 水酸化ナトリウム水溶液

⑧ 0.010 mol/L 水酸化ナトリウム水溶液

⑨ 0.0010 mol/L 水酸化ナトリウム水溶液

(2020年度センター試験 本試験 化学基礎 第2問問3 より引用)

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正解 A 8     B 4

問題の選択肢から水溶液 A と B について、1 価の強酸である塩酸、1 価の弱酸である酢酸、1 価の強塩基である水酸化ナトリウムの可能性を考えます。

滴定曲線のグラフを見ると、pH 12(強塩基の領域)から、水溶液 B を 15 mL 滴下したところで pH 7 よりは塩基性側で中和して、pH 4~5(弱酸の領域)に至っています。

滴定開始前に pH = 12 ということは、水素イオン濃度 [H+] は 1.0 × 10-12 mol/L です。

水のイオン積

Kw = [H+] [OH] = 1.0 × 10-14 mol2/L2

より、

[OH] = 1.0 × 10-2 mol/L になります。

最初に pH = 12 なので、水溶液 A として、0.01 mol/L の強塩基がビーカーに入っていたとわかります。これに当てはまるのは、0.010 mol/L の水酸化ナトリウムです。

この塩基 150 mL を水溶液 B 15 mL で中和しています。

水溶液 B は塩酸か酢酸のどちらかですが、いずれも 1 価の酸なので、酸の濃度は塩基の 10 倍だとわかります。

したがって、酸の濃度は 0.10 mol/L です。

さらに、中和点が弱塩基性であること、中和反応後に酸を加え続けると溶液が弱酸性になることから、この酸は弱酸と考えられます。

したがって、水溶液 B は 0.10 mol/L 酢酸水溶液とわかります。

実践問題2(2016本第2問問4)

ある酸 A の水溶液をある塩基 B の水溶液に滴下すると、pH は表 1 のように変化した。この酸 A の水溶液を用いて塩基 B の水溶液を中和滴定するとき、用いる指示薬として最も適当なものを、下の①~④のうちから一つ選べ。

① 変色域の pH が 1.2 ~ 2.8 の指示薬

② 変色域の pH が 4.2 ~ 6.2 の指示薬

③ 変色域の pH が 8.0 ~ 9.8 の指示薬

④ 変色域の pH が 9.3 ~ 10.5 の指示薬

(2016年度センター試験 本試験 化学基礎 第2問問4 より引用)

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正解 2

滴下量 10 mL の前後で pH が大きく動いているので、この付近が中和点と考えられます。

pH = 5.2 前後で中和しているので、弱塩基に強酸を加えていると思われます。

変色域の pH が 4.2 ~ 6.2 の指示薬ならば、中和点直前の pH = 6.2 まで色は変わらず、中和点を過ぎた直後の pH = 4.2 で色が変わるので、この滴定では適切です。

他の指示薬では、③と④では中和される前に変色してしまいます。①は中和点を少し過ぎたあとでないと変色しません。

このように②以外の指示薬は不適当です。

実践問題3(2019追第2問問4)

0.10 mol/L シュウ酸水溶液 10 mL に指示薬としてフェノールフタレインを入れ、0.10 mol/L 水酸化ナトリウム水溶液で滴定した。滴下量と溶液の色の関係を示す図として最も適当なものを、次の①~⑥のうちから一つ選べ。

(2019年度センター試験 追試験 化学基礎 第2問問4 より引用)

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正解 4

実験では、2 価の弱酸であるシュウ酸 H2C2O4 を、1 価の強塩基である水酸化ナトリウム NaOH で中和滴定します。

フェノールフタレインの変色域はおおよそ pH 8.0 ~ 9.8 で、pH = 8.0 より酸性側で無色で、pH = 9.8 より塩基性側で赤くなります。

シュウ酸と水酸化ナトリウムの中和反応は

H2C2O4 + 2 NaOH → Na2C2O4 + 2 H2O

となります。

(シュウ酸は (COOH)2 と書いてもよいので、下のような化学反応式でもかまいません。)

(COOH)2  + 2 NaOH →  (COO)2Na2 + 2 H2O

中和点における水酸化ナトリウムの滴下量を X ml とすると、

0.10[mol/L] × \(\frac{10[ml]}{1000[ml]}\) × 2価 = 0.10[mol/L] × \(\frac{X[ml]}{1000[ml]}\) × 1価

X = 20

まとめると、水酸化ナトリウム水溶液の滴下量は 20 mL です。

また、中和点 ( 20 mL ) 以前は pH 8.0 ~ 9.8 のフェノールフタレインの変色域に入らず無色で、中和点を超えると塩基性側に移り、水溶液は赤色となります。

これらを満たすのは④です。

実践問題4(2018本第2問問5)

0.10 mol/L の NaHCO3 水溶液 25 mL を 0.10 mol/L の塩酸で滴定したときの滴定曲線として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。

(2018年度センター試験 本試験 化学基礎 第2問問5 より引用)

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正解 5

炭酸水素ナトリウム NaHCO3 は、強塩基と弱酸の塩であり、弱塩基性です。

強酸である塩酸を加えていくと

NaHCO3 + HCl  →  NaCl + CO2 + H2O

という中和反応が進みます。

滴定の途中で CO2 が発生しており、炭酸水となるので pH は酸性側に動きます。

中和点の 25 mL を大きく超えると、強酸の 0.10 mol/L 塩酸を加えていくので、pH は 1 に近づいていきます。

まとめると、弱塩基の領域から中和滴定の操作が始まり、中和点では中性( pH = 7 )よりは酸性側であり、最終的に pH = 1 に近づいていきます。

当てはまる滴定曲線は⑤です。

実践問題5(2017本第2問問5)

次に示す化合物群のいずれかを用いて調製された 0.01 mol/L 水溶液 AC がある。各水溶液 100 mL ずつを別々のビーカーにとり、指示薬としてフェノールフタレインを加え、0.1 mol/L 塩酸または 0.1 mol/L NaOH 水溶液で中和滴定を試みた。次に指示薬をメチルオレンジに変えて同じ実験を行った。それぞれの実験により、下の表 1 の結果を得た。水溶液 AC に入っていた化合物の組合せとして最も適当なものを、下の①~⑧のうちから一つ選べ。

化合物群:NH3  KOH  Ca(OH)2  CH3COOH  HNO3

(2017年度センター試験 本試験 化学基礎 第2問問5 より引用)

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正解 5

化合物群の水溶液は以下の通りです。

アンモニア NH31 価の弱塩基
水酸化カリウム KOH1 価の強塩基
水酸化カルシウム Ca(OH)22 価の強塩基
酢酸 CH3COOH1 価の弱酸
硝酸 HNO31 価の強酸

0.01 mol/L の A~C の水溶液 100 mL を中和滴定するとき、 0.1 mol/L の塩酸もしくは NaOH 水溶液を使うと、中和に要する液量は 10 mL または 20 mL です。

0.01[mol/L] × \(\frac{100[ml]}{1000[ml]}\) × A~C溶液の価数 = 0.1[mol/L] × \(\frac{10 or 20[ml]}{1000[ml]}\) × 1価

2価の化合物は Ca(OH)2 だけであり、中和に 20 mL 必要なのはこの化合物しかないので、化合物 B は Ca(OH)2 です。

また指示薬を加えたときの様子から、水溶液 A は

フェノールフタレインを用いたとき赤から無色に徐々に変化した

とあるので、

フェノールフタレインの変色域が pH 8.0 ~ 9.8 であることから、中和点までのあいだに水溶液は弱塩基性の領域で徐々に pH が変化した

とわかります。

同時に、メチルオレンジを用いたとき黄から赤に急激に変化した

とあるので、

メチルオレンジの変色域が pH 3.1 ~ 4.4 であることから、中和点付近から中和点を超えたとき、急激に酸性側で pH が変化した

ことがわかります。

まとめると、塩基性側で pH の変化がゆっくりで、中和点付近を過ぎ酸性側で pH の変化が大きくなっています。

これらを考えると、弱塩基に強酸を滴下しているので、化合物 A は NH3 です。

水溶液 C は

フェノールフタレインを用いたとき無色から赤に急激に変化した

とあるので、

フェノールフタレインの変色域が pH 8.0 ~ 9.8 であることから、中和点付近から中和点を超えたとき、塩基性側で急激に pH が変化していることがわかります。

同時に、メチルオレンジを用いたとき赤から黄に徐々に変化した

とあるので、

メチルオレンジの変色域が pH 3.1 ~ 4.4 であることから、中和点までのあいだに水溶液は弱酸性の領域で徐々に pH が変化した

ことがわかります。

まとめると、酸性側で pH の変化がゆっくりで、中和点付近から中和点を超えたとき、 塩基性側で pH の変化が大きくなっています。

これらを考えると、弱酸に強塩基を滴下しているので、化合物 C は CH3COOH です。

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