電池とは、酸化還元反応によって生じる化学エネルギーを、電気エネルギーに変換して取り出す装置です。
酸化反応が起こり電子が流れ出る側を負極、還元反応が起こり電子が流れ込む側を正極といいます。
両極のあいだの電位差を、電池の起電力といいます。
電子は負極から正極へ流れ、電流は正極から負極へ流れます。
電池の正極から負極へ電流を流すことを、電池の放電といいます。電池を外部電源につなぎ、放電とは逆向きに電流を流して、電池を放電前の状態に戻すことを充電といいます。
充電して繰り返し使える電池を二次電池、充電できない電池を一次電池といいます。
負極と正極、電解質の種類によって、さまざまな電池が存在します。
もくじ
電池とは
生活を便利にする電池は、身の回りのいたるところに存在しています。この電池は、酸化還元反応によって生じる化学エネルギーを、電気エネルギーに変換するために使われています。
2 種類の金属板を導線でつないで電解質の水溶液に浸したとき、イオン化傾向の大きな金属が陽イオンになるとします。
このとき金属が溶け電子が放出されている金属板から、もう一方の金属板へ電子が移動します。
この 2 種類の金属を電極といい、電子を放出して酸化反応が起こっている金属板を負極、電子が流れ込み還元反応が起こっている金属板を正極といいます。
負極と正極のあいだで発生した電位差のことを、電池の起電力といいます。
電子は負極から正極へ流れます。
正の電気の流れの向きが電流の向きと決められているので、電流は正極から負極へ流れます。
電池の正極から負極へ電流を流すことを、電池の放電といいます。
これに対し、ある程度放電した電池を外部電源につなぎ、放電とは逆向きに電流を流して、電池を放電前の状態に戻すことを充電といいます。
充電して繰り返し使える電池を二次電池、充電できない電池を一次電池といいます。
さまざまな電池
電池の構造は、電池式と呼ばれる簡単な式で表すことができます。
左に負極、右に正極、中央に電解質を書き、||で区切ります。aq は水溶液を意味します。
例えば、(-) Zn|H2SO4 aq|Cu (+) であれば、負極は亜鉛で正極は銅、電解質は希硫酸という電池を表します。
ボルタ電池
1800 年頃にイタリアの科学者ボルタが発明した電池を、ボルタ電池といいます。ボルタ電池の電池式は (-) Zn|H2SO4 aq|Cu (+) です。
負極が亜鉛、正極が銅、電解質水溶液は希硫酸となります。
負極の反応は Zn → Zn2+ + 2 e- です。
正極の反応は 2 H+ + 2 e- → H2 です。
電池全体の反応は Zn + 2 H+ → Zn2+ + H2 です。
ダニエル電池
1836 年にイギリスの科学者ダニエルが発明した電池を、ダニエル電池といいます。ダニエル電池の電池式は (-) Zn|ZnSO4 aq|CuSO4 aq|Cu (+) です。
負極と正極のあいだは、水溶液が混ざらないようにセロハンや素焼き板で分けられています。
セロハンや素焼き板は、イオンを通します。
負極が亜鉛、負極側の電解質は薄い硫酸亜鉛水溶液、正極が銅、正極側の電解質は濃い硫酸銅(Ⅱ)水溶液となります。
負極の反応は Zn → Zn2+ + 2 e- です。
正極の反応は Cu2+ + 2 e- → Cu です。
電池全体の反応は Cu2+ + Zn → Cu + Zn2+ です。
Zn や Cu2+ のように、電極で電子の受け渡しをする物質を、活物質といいます。
鉛蓄電池
鉛蓄電池は充電ができる二次電池です。鉛蓄電池の電池式は (-) Pb|H2SO4 aq|PbO2 (+) です。
鉛蓄電池を放電すると、正極と負極のどちらも、水に溶けにくい白色の硫酸鉛(Ⅱ) PbSO4 で覆われてきます。
充電すると、放電とは逆向きの反応が起こります。正極に付着していた PbSO4 は PbO2 に、負極に付着していた PbSO4 は Pb に戻ります。
負極は鉛、電解質水溶液は希硫酸、正極は酸化鉛(Ⅳ)です。
負極の反応は Pb + SO42- → PbSO4 + 2 e- です。
正極の反応は PbO2 + 4 H+ + SO42- + 2 e- → PbSO4 + 2 H2O です。
電池全体の反応は Pb + PbO2 + 2 H2SO4 ⇄ 2 PbSO4 + 2 H2O です。
鉛蓄電池は充電可能です。右側に進む電池全体の反応は放電、左側に進む反応は充電です。
燃料電池
固体高分子形燃料電池は、白金触媒をつけた負極と正極、電解質である固体高分子膜を貼り合わせてできています。
負極には水素 H2 、正極には酸素 O2 が供給されます。
負極では H2 が電子を放出して H+ となります。この H+ は固体高分子膜を通り、正極に移動します。
正極では酸素 O2 と H+ が還元反応をして、水 H2O が生成します。
負極の反応は H2 → 2 H+ + 2 e- です。
正極の反応は O2 + 4 H+ + 4 e- → 2 H2O です。
電池全体の反応は 2 H2 + O2 → 2 H2O です。
問題演習
確認テスト1
次の文章の空欄に適切な語句を入れましょう。
電池とは、酸化還元反応によって生じる( A )エネルギーを、( B )エネルギーに変換して取り出す装置です。
酸化反応が起こり電子が流れ出る側を( C )、還元反応が起こり電子が流れ込む側を( D )といいます。
両極のあいだの電位差を、電池の起電力といいます。
電子は負極から正極へ流れ、電流は( D )から( C )へ流れます。
充電して繰り返し使える電池を( E )または蓄電池といい、充電できない電池を( F )といいます。
ダニエル電池の電池式は (-) Zn|ZnSO4 aq|CuSO4 aq|Cu (+) と表され、負極と正極のあいだは、水溶液が混ざらないようにセロハンや素焼き板で分けられています。
ダニエル電池の負極は( G )、負極側の電解質は薄い硫酸亜鉛水溶液、正極は( H )、正極側の電解質は濃い硫酸銅(Ⅱ)水溶液でできています。
鉛蓄電池の電池式は (-) Pb|H2SO4 aq|PbO2 (+) です。
鉛蓄電池を放電すると、正極と負極のどちらも、水に溶けにくい白色の( I )で覆われてきます。
燃料電池は環境への負荷が低いため、現在さかんに研究開発が行われています。燃料電池全体の化学反応は、( J )と( K )から水が生成します。
実践問題1(2020本第2問問5)
化学電池(電池)に関する記述として誤りを含むものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
① 電池の放電では、化学エネルギーが電気エネルギーに変換される。
② 電池の放電時には、負極では還元反応が起こり、正極では酸化反応が起こる。
③ 電池の正極と負極との間に生じる電位差を、電池の起電力という。
④ 水素を燃料として用いる燃料電池では、発電時(放電時)に水が生成する。
(2020年度センター試験 本試験 化学基礎 第2問問5 より引用)
実践問題2(2016本第2問問7)
電池に関する次の文章中の [ ア ] ~ [ ウ ] に当てはまる語の組合せとして正しいものを、下の①~⑧のうちから一つ選べ。
図 1 のように、導線でつないだ 2 種類の金属( A・B )を電解質の水溶液に浸して電池を作製する。このとき、一般にイオン化傾向の大きな金属は [ ア ] され、[ イ ] となって溶け出すので、電池の [ ウ ] となる。
(2016年度センター試験 本試験 化学基礎 第2問問7 より引用)
実践問題3(2015追第2問問6)
電池に関する記述として下線部に誤りを含むものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
① 導線から電子が流れこむ電極を、電池の正極という。
② 電池の両極間の電位差を起電力という。
③ 充電によって繰り返し使うことのできる電池を、二次電池という。
④ ダニエル電池では、亜鉛よりイオン化傾向が小さい銅の電極が負極となる。
⑤ 鉛蓄電池では、鉛と酸化鉛(Ⅳ)を電極に用いる。
(2015年度センター試験 追試験 化学基礎 第2問問6 より引用)
実践問題4(2018本第2問問7)
身のまわりの電池に関する記述として下線部に誤りを含むものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
① アルカリマンガン乾電池は、正極に MnO2 、負極に Zn を用いた電池であり、日常的に広く使用されている。
② 鉛蓄電池は、電解液に希硫酸を用いた電池であり、自動車のバッテリーに使用されている。
③ 酸化銀電池(銀電池)は、正極に Ag2O を用いた電池であり、一定の電圧が長く持続するので、腕時計などに使用されている。
④ リチウムイオン電池は、負極に Li を含む黒鉛を用いた一次電池であり、軽量であるため、ノート型パソコンや携帯電話などの電子機器に使用されている。
(2018年度センター試験 本試験 化学基礎 第2問問7 より引用)