酸化還元反応の量的関係

ポイント

酸化還元反応を利用した滴定操作を、酸化還元滴定といいます。

過マンガン酸カリウム KMnO4 を酸化剤として使うと、溶液の色の変化から酸化還元反応の完了を知ることができます。

酸化還元反応では、酸化剤の受け取った電子の物質量と還元剤の失った電子の物質量が等しいです。

酸化還元滴定

酸化還元反応では、酸化によって失われる電子の数と、還元によって受け取る電子の数が等しくなります。

この性質を利用すると、濃度のわからない酸化剤や還元剤の溶液について、滴定の操作を行って濃度を測定することができます

具体的には、濃度不明な酸化剤(または還元剤)の溶液を、正確な濃度がわかっている還元剤(または酸化剤)で滴定します。

そして、酸化還元反応に使われた酸化剤と還元剤の溶液の体積を正確に量ると、求めたい溶液の濃度が計算できます。

実際の滴定操作は、中和滴定実験と同じように行います。

MnO4 と Mn2+

酸化還元滴定では、過マンガン酸カリウム水溶液がよく使われます。

その理由は、酸化還元反応が終了すると溶液の色が変化するので、反応が完了した時点を目で確認できるからです。

過マンガン酸イオン MnO4 は、水溶液中で赤紫色を示します。一方のマンガン(Ⅱ)イオン Mn2+ の水溶液は、ほぼ無色です。この違いを利用します。

酸化還元滴定において、ビュレットから MnO4 の入った溶液を、還元剤の入ったコニカルビーカーに滴下します。

このとき、ビュレット内は MnO4 の赤紫色です。しかし、コニカルビーカー内は還元剤によって MnO4 が Mn2+ に還元されるので無色です。

酸化還元滴定を始めてからしばらくのあいだは、ビュレット内は赤紫色ですが、コニカルビーカー内は無色の状態が続きます。

それが酸化還元反応が終わった時点で、コニカルビーカーに MnO4 を滴下しても還元されなくなります。その時点を過ぎてさらに滴下すると、コニカルビーカー内は MnO4 の赤紫色に変化します。

つまり、過マンガン酸カリウム水溶液をビュレットから滴下して、還元剤を入れたコニカルビーカーの溶液が無色から赤紫色に変わり始めたときが、酸化還元反応の完了したときです。

このとき、ビュレットの目盛りを読み取ることで、求めたい溶液の濃度を計算できます。

酸化還元反応の量的関係

酸化還元反応を考えるために、半反応式や酸化還元反応式を書けるように学んできました。学習した目的のひとつは、酸化剤と還元剤が反応する物質量の比を正確に知るためです。

酸化剤と還元剤がいくつの物質量の比で反応するのかわかれば、酸化還元滴定によってこれらの濃度を正確に計算できます。

酸化剤と還元剤が直接どれだけの物質量の比で反応するか考え、計算することができます。

または、酸化剤が受け取る電子の物質量と、還元剤が失う電子の物質量が等しくなることを利用して計算することもできます

過酸化水素と過マンガン酸カリウムの反応を例にして、練習してみましょう。

物質量の比で考える

例題

 濃度不明の過酸化水素水 10.0 mL をコニカルビーカーにとり、希硫酸を加えたのち、0.10 mol/L 過マンガン酸カリウム水溶液をビュレットから滴下すると、6.0 mL 滴下したところで赤紫色が消えなくなった。過酸化水素水のモル濃度(X mol/L )を求めよ。 

まずは、酸化剤である過マンガン酸カリウム KMnO4 と還元剤 H2O2 の半反応式を書きます。

MnO4 + 8 H+ + 5 e → Mn2+ + 4 H2O  ‥‥(A)

H2O2 → O2 + 2 H+ + 2 e  ‥‥(B)

(A)式を 2 倍、(B)式を 5 倍して、両式を足し合わせると電子が消せます。

2 MnO4 + 16 H+ + 10 e → 2 Mn2+ + 8 H2O

5 H2O2 → 5 O2 + 10 H+ + 10 e

足し合わせると

2 MnO4 + 6 H+ + 5 H2O2 → 2 Mn2+ + 8 H2O + 5 O2  ‥‥(C)

(C)式は酸化還元反応式まで至っていませんが、この段階でも滴定の計算はできます。

MnO4 が 2 モルと、H2O2 が 5 モルの比で反応することがわかります。つまり、過マンガン酸カリウム 2 モルと過酸化水素 5 モルが反応します。

過酸化水素の物質量は、過マンガン酸カリウムの物質量の\(\frac{5}{2}\)倍になるので、

$$0.10 mol/L × \frac{6.0 mL}{1000 mL} × \frac{5}{2} = X mol/L × \frac{10.0 mL}{1000 mL}$$

これを解くと X = 0.15 mol/L となります。

電子の物質量を合わせる

先ほどの例題を、電子の物質量を合わせることで解いてみましょう。

酸化剤が受け取る電子の物質量と、還元剤が失う電子の物質量が等しくなったときに、酸化還元反応が完了します。

こちらの解き方では、2 つの半反応式から解けます。

MnO4 + 8 H+ + 5 e → Mn2+ + 4 H2O  ‥‥(A)

H2O2 → O2 + 2 H+ + 2 e  ‥‥(B)

(A)の半反応式から、過マンガン酸カリウムが 1 モルあると、電子を 5 モル受け取ることがわかります。

(B)の半反応式から、過酸化水素が 1 モルあると、電子を 2 モル失うことがわかります。

過マンガン酸カリウムが受け取る電子の物質量と、過酸化酸素が失う電子の物質量が等しくなるので

$$0.10 mol/L × \frac{6.0 mL}{1000 mL} × 5 = X mol/L × \frac{10.0 mL}{1000 mL} × 2$$

これを解くと X = 0.15 mol/L となります。

問題演習

確認テスト1

濃度不明のシュウ酸水溶液 10.0 mL をコニカルビーカーにとり、希硫酸を加えたのち、0.10 mol/L 過マンガン酸カリウム水溶液をビュレットから滴下すると、8.0 mL 滴下したところで赤紫色が消えなくなった。

シュウ酸水溶液のモル濃度( X mol/L )を求めましょう。

正解を見る

まずは、酸化剤である過マンガン酸カリウム KMnO4 と、還元剤であるシュウ酸 (COOH)2 の半反応式を書きます。

MnO4 + 8 H+ + 5 e → Mn2+ + 4 H2O  ‥‥(A)

(COOH)2 → 2 CO2 + 2 H+ + 2 e  ‥‥(B)

(A)式を 2 倍、(B)式を 5 倍して、両式を足し合わせると電子が消せます。

2 MnO4 + 16 H+ + 10 e → 2 Mn2+ + 8 H2O

5 (COOH)2 → 10 CO2 + 10 H+ + 10 e

足し合わせると

2 MnO4 + 6 H+ + 5 (COOH)2 → 2 Mn2+ + 8 H2O + 10 CO2  ‥‥(C)

(C)式は酸化還元反応式まで至っていませんが、この段階でも滴定の計算はできます。

MnO4 が 2 モルと、(COOH)2 が 5 モルの比で反応することがわかります。つまり、過マンガン酸カリウム 2 モルとシュウ酸 5 モルが反応します。

シュウ酸の物質量は、過マンガン酸カリウムの物質量の\(\frac{5}{2}\)倍になるので、

$$0.10 mol/L × \frac{8.0 mL}{1000 mL} × \frac{5}{2} = X mol/L × \frac{10.0 mL}{1000 mL}$$

これを解くと X = 0.20 mol/L となります。

別の解き方として、受け渡される電子の物質量を合わせてみましょう。

酸化剤が受け取る電子の物質量と、還元剤が失う電子の物質量が等しくなったときに、酸化還元反応が完了します。

こちらの解き方では、2 つの半反応式から解けます。

MnO4 + 8 H+ + 5 e → Mn2+ + 4 H2O  ‥‥(A)

(COOH)2 → 2 CO2 + 2 H+ + 2 e  ‥‥(B)

(A)の半反応式から、過マンガン酸カリウムが 1 モルあると、電子を 5 モル受け取ることがわかります。

(B)の半反応式から、シュウ酸が 1 モルあると、電子を 2 モル失うことがわかります。

過マンガン酸カリウムが受け取る電子の物質量と、シュウ酸が失う電子の物質量が等しくなるので

$$0.10 mol/L × \frac{8.0 mL}{1000 mL} × 5 = X mol/L × \frac{10.0 mL}{1000 mL} × 2$$

これを解くと X = 0.20 mol/L となります。

実践問題1(2018追第2問問4)

過マンガン酸カリウム KMnO4 と過酸化水素 H2O2 の酸化剤あるいは還元剤としてのはたらきは、電子を含む次のイオン反応式で表される。

MnO4 + 8 H+ + 5 e  →  Mn2+ + 4 H2O   (1)

H2O2  →  O2 + 2 H+ + 2 e           (2)

過酸化水素 x [ mol ] を含む硫酸酸性水溶液に過マンガン酸カリウム水溶液を加えたところ、酸素が発生した。この反応における加えた過マンガン酸カリウムの物質量と、未反応の過酸化水素の物質量との関係は、図 1 のようになった。次の問い( ab )に答えよ。

a 反応式 (2) における酸素原子の酸化数の変化として正しいものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。

① 2 減る。    ② 1 減る。    ③ 変化しない。

④ 1 増える。    ⑤ 2 増える。

b 反応前の過酸化水素の物質量 x は何 mol か。最も適当な数値を、次の①~⑥のうちから一つ選べ。

(①~⑥の数値の単位は mol )

① 0.010    ② 0.025    ③ 0.040

④ 0.25    ⑤ 0.40    ⑥ 1.0

(2018年度センター試験 追試験 化学基礎 第2問問4 より引用)

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正解 a 4     b 4

a

酸化数は -1 から 0 へと変化します。

H2O2 では H の酸化数 が +1 で、O の酸化数は -1 、H2O2 全体の酸化数は 0 です。

(過酸化水素 H2O2 の酸素原子の酸化数は、-2 ではなく例外的に -1 です。)

O2 は単体なので、分子全体では酸化数は 0 。したがって O の酸化数は 0 です。

b

2つの半反応式の両辺を加えて、反応式を導きます。

(1)式 × 2 + (2)式 × 5 より

2 MnO4 + 5 H2O2 + 6 H+  →  2 Mn2+ + 5 O2 + 8 H2O

グラフより、過マンガン酸カリウムが 0.10 mol あるときに反応が完了しています。

過マンガン酸イオン 2 mol と過酸化水素 5 mol が反応するので、過マンガン酸カリウム 0.10 mol と反応する過酸化水素は

0.10[mol] × \(\frac{5}{2}\) = 0.25[mol]

したがって、反応前の過酸化水素の物質量 x は 0.25 mol です。

実践問題2(2017追第2問問7)

十分な量のヨウ化カリウム KI の水溶液に、硫酸酸性の過酸化水素 H2O2 の水溶液を加えて酸化すると、ヨウ素 I2 が生成した。消費した H2O2 の質量と生成した I2 の物質量の関係を表す直線として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。

必要があれば、原子量は次の値を使うこと。

H 1.0    O 16

(2017年度センター試験 追試験 化学基礎 第2問問7 より引用)

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正解 4

ヨウ化カリウム KI 中のヨウ化物イオン I は還元剤としてはたらき、ヨウ素 I2 になります。

過酸化水素 H2O2 は酸化剤としてはたらき、還元されて水 H2O になります。

これらの酸化還元反応の半反応式は

2 I → I2 + 2 e

H2O2 + 2 H+ + 2 e → 2 H2O

となります。

上の 2 式を加えて e を消去すると

2 I + H2O2 + 2 H+  →  I2 + 2 H2O

水溶液中にはカリウムイオン K+ と硫酸イオン SO42- があるので、これらを使って電気的に中性にできます。

両辺に 2 K+ と SO42- を加えて整理すると、反応式が完成します。

2 KI + H2O2 + H2SO4  →  I2 + K2SO4 + 2 H2O

この反応式(イオン反応式の段階でもわかります)から、H2O2 1 mol が反応すると I2 が 1 mol 生成することがわかります。

H2O2 の分子量は 1.0 × 2 + 16 × 2 = 34 です。

例えば、生成した I2 が 0.01 mol ならば、H2O2 の消費量は

34[g/mol] × 0.01[mol] = 0.34[g]

となり、この結果は④のグラフと一致します。

実践問題3(2020追第2問問5)

MnO2 と HCl から、MnCl2 、Cl2 および H2O が生成する反応で、 0.25 mol の Cl2 が生成したとき、Mn が受け取る電子は何 mol か。最も適当な数値を、次の①~⑥のうちから一つ選べ。

(①~⑥の数値の単位は mol )

① 0.25   ② 0.50   ③ 1.0   ④ 2.0   ⑤ 4.0   ⑥ 6.0

(2020年度センター試験 追試験 化学基礎 第2問問5 より引用)

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正解 2

半反応式は次の通りです。

MnO2 + 4 H+ + 2 e → Mn2+ + 2 H2O

2 Cl → Cl2 + 2 e

この 2 式を加えると

MnO2 + 2 Cl + 4 H+  →  Mn2+ + 2 H2O + Cl2

2Cl を両辺に加えて反応式を完成させると

MnO2 + 4 HCl  →  MnCl2 + 2 H2O + Cl2

この酸化還元反応では、Mn 1 mol と電子 2 mol 、また Cl2 1 mol と電子 2 mol が反応しています。

そこで、0.25 mol の Cl2 が発生したとき、 Mn が受け取る電子は 0.50 mol です。

実践問題4(2018試第2問問3)

清涼飲料水の中には、酸化防止剤としてビタミン C(アスコルビン酸)C6H8O6 が添加されているものがある。ビタミン C は酸素 O2 と反応することで、清涼飲料水中の成分の酸化を防ぐ。このときビタミン C および酸素の反応は、次のように表される。

ビタミン C と酸素が過不足なく反応したときの、反応したビタミン C の物質量と、反応した酸素の物質量の関係を表す直線として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。

(第2回 共通テスト試行調査 化学基礎 第2問問3 より引用)

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正解 4

問題で与えられた2つの半反応式について

C6H8O6  → C6H6O6 + 2 H+ + 2 e  ‥‥(1)

O2 + 4 H+ + 4 e → 2 H2O  ‥‥(2)

(1) × 2 + (2) を計算して電子を消去します。

2 C6H8O6 + O2 → 2 C6H6O6 + 2 H2O

となるので、2 mol のビタミン C と 1 mol の酸素が反応することがわかります。

グラフ④では 1.0 mol のビタミン C と 0.5 mol の酸素が反応しているので、反応の比率が該当します。

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