電気分解の基本

ポイント

電解質の水溶液に電極を浸し、外部電源を用いて直流電流を流すと、電極表面で酸化還元反応が起こります。これを電気分解といいます。

電気分解では、外部電源の正極につないだ電極を陽極、外部電源の負極につないだ電極を負極といいます。

電解質の水溶液に電極を浸し、外部電源を用いて直流電流を流すと、電極表面で酸化還元反応が起こります。これを電気分解といいます。

電気分解では、外部電源の正極につないだ電極を陽極外部電源の負極につないだ電極を負極といいます。

陽極は正の電気が流れ込む向きなので、電子が流れ出る反応が起こります。すなわち、陽極では酸化反応が起こります

陰極は電子が流れ込むので、還元反応が起こります。

例えば、黒鉛(炭素)を電極として、塩化銅 CuCl2 水溶液を電気分解します。

このとき陽極では酸化反応が起き、水溶液中の塩化物イオン Cl が電子を放出し、気体の塩素 Cl2 が生じます。

陰極では還元反応が起き、水溶液中の銅(Ⅱ)イオン Cu2+ が電子を受け取り、Cu となって陰極に付着します(析出するといいます)。

陽極の反応は  2 Cl → Cl2 + 2 e

陰極の反応は  Cu2+ + 2 e → Cu

電池の基本

ポイント

電池とは、酸化還元反応によって生じる化学エネルギーを、電気エネルギーに変換して取り出す装置です。

酸化反応が起こり電子が流れ出る側を負極、還元反応が起こり電子が流れ込む側を正極といいます。

両極のあいだの電位差を、電池の起電力といいます。

電子は負極から正極へ流れ、電流は正極から負極へ流れます。

電池の正極から負極へ電流を流すことを、電池の放電といいます。電池を外部電源につなぎ、放電とは逆向きに電流を流して、電池を放電前の状態に戻すことを充電といいます。

充電して繰り返し使える電池を二次電池、充電できない電池を一次電池といいます。

負極と正極、電解質の種類によって、さまざまな電池が存在します。

電池とは

生活を便利にする電池は、身の回りのいたるところに存在しています。この電池は、酸化還元反応によって生じる化学エネルギーを、電気エネルギーに変換するために使われています。

2 種類の金属板を導線でつないで電解質の水溶液に浸したとき、イオン化傾向の大きな金属が陽イオンになるとします。

このとき金属が溶け電子が放出されている金属板から、もう一方の金属板へ電子が移動します。

この 2 種類の金属を電極といい、電子を放出して酸化反応が起こっている金属板を負極、電子が流れ込み還元反応が起こっている金属板を正極といいます。

負極と正極のあいだで発生した電位差のことを、電池の起電力といいます。

電子は負極から正極へ流れます。

正の電気の流れの向きが電流の向きと決められているので、電流は正極から負極へ流れます

電池の正極から負極へ電流を流すことを、電池の放電といいます。

これに対し、ある程度放電した電池を外部電源につなぎ、放電とは逆向きに電流を流して、電池を放電前の状態に戻すことを充電といいます。

充電して繰り返し使える電池を二次電池、充電できない電池を一次電池といいます。

さまざまな電池

電池の構造は、電池式と呼ばれる簡単な式で表すことができます。

左に負極、右に正極、中央に電解質を書き、||で区切ります。aq は水溶液を意味します。

例えば、(-) Zn|H2SO4 aq|Cu (+) であれば、負極は亜鉛で正極は銅、電解質は希硫酸という電池を表します。

ボルタ電池

1800 年頃にイタリアの科学者ボルタが発明した電池を、ボルタ電池といいます。ボルタ電池の電池式は (-) Zn|H2SO4 aq|Cu (+) です。

負極が亜鉛、正極が銅、電解質水溶液は希硫酸となります。

負極の反応は  Zn → Zn2+ + 2 e  です。

正極の反応は  2 H+ + 2 e → H2  です。

電池全体の反応は  Zn + 2 H+ → Zn2+ + H2  です。

ダニエル電池

1836 年にイギリスの科学者ダニエルが発明した電池を、ダニエル電池といいます。ダニエル電池の電池式は (-) Zn|ZnSO4 aq|CuSO4 aq|Cu (+) です。

負極と正極のあいだは、水溶液が混ざらないようにセロハンや素焼き板で分けられています。

セロハンや素焼き板は、イオンを通します。

負極が亜鉛、負極側の電解質は薄い硫酸亜鉛水溶液、正極が銅、正極側の電解質は濃い硫酸銅(Ⅱ)水溶液となります。

負極の反応は  Zn → Zn2+ + 2 e  です。

正極の反応は  Cu2+ + 2 e → Cu  です。

電池全体の反応は  Cu2+ + Zn → Cu + Zn2+  です。

Zn や Cu2+ のように、電極で電子の受け渡しをする物質を、活物質といいます。

鉛蓄電池

鉛蓄電池は充電ができる二次電池です。鉛蓄電池の電池式は (-) Pb|H2SO4 aq|PbO2 (+) です。

鉛蓄電池を放電すると、正極と負極のどちらも、水に溶けにくい白色の硫酸鉛(Ⅱ) PbSO4 で覆われてきます。

充電すると、放電とは逆向きの反応が起こります。正極に付着していた PbSO4 は PbO2 に、負極に付着していた PbSO4 は Pb に戻ります。

負極は鉛、電解質水溶液は希硫酸、正極は酸化鉛(Ⅳ)です。

負極の反応は  Pb + SO42- → PbSO4 + 2 e  です。

正極の反応は  PbO2 + 4 H+ + SO42- + 2 e → PbSO4 + 2 H2O  です。

電池全体の反応は  Pb + PbO2 + 2 H2SO4 ⇄ 2 PbSO4 + 2 H2O  です。

鉛蓄電池は充電可能です。右側に進む電池全体の反応は放電、左側に進む反応は充電です。

燃料電池

固体高分子形燃料電池は、白金触媒をつけた負極と正極、電解質である固体高分子膜を貼り合わせてできています。

負極には水素 H2 、正極には酸素 O2 が供給されます。

負極では H2 が電子を放出して H+ となります。この H+ は固体高分子膜を通り、正極に移動します。

正極では酸素 O2 と H+ が還元反応をして、水 H2O が生成します。

負極の反応は  H2 → 2 H+ + 2 e  です。

正極の反応は  O2 + 4 H+ + 4 e → 2 H2O  です。

電池全体の反応は  2 H2 + O2 → 2 H2O  です。

問題演習

確認テスト1

次の文章の空欄に適切な語句を入れましょう。

電池とは、酸化還元反応によって生じる( A )エネルギーを、( B )エネルギーに変換して取り出す装置です。

酸化反応が起こり電子が流れ出る側を( C )、還元反応が起こり電子が流れ込む側を( D )といいます。

両極のあいだの電位差を、電池の起電力といいます。

電子は負極から正極へ流れ、電流は( D )から( C )へ流れます。

充電して繰り返し使える電池を( E )または蓄電池といい、充電できない電池を( F )といいます。

ダニエル電池の電池式は (-) Zn|ZnSO4 aq|CuSO4 aq|Cu (+) と表され、負極と正極のあいだは、水溶液が混ざらないようにセロハンや素焼き板で分けられています。

ダニエル電池の負極は( G )、負極側の電解質は薄い硫酸亜鉛水溶液、正極は( H )、正極側の電解質は濃い硫酸銅(Ⅱ)水溶液でできています。

鉛蓄電池の電池式は (-) Pb|H2SO4 aq|PbO2 (+) です。

鉛蓄電池を放電すると、正極と負極のどちらも、水に溶けにくい白色の( I )で覆われてきます。

燃料電池は環境への負荷が低いため、現在さかんに研究開発が行われています。燃料電池全体の化学反応は、( J )と( K )から水が生成します。

正解を見る

A:化学   B:電気   C:負極   D:正極   E:二次電池

F:一次電池   G:亜鉛 Zn   H:銅 Cu   I:硫酸鉛(Ⅱ) PbSO4

J、K:水素 H2 、酸素 O2

実践問題1(2020本第2問問5)

化学電池(電池)に関する記述として誤りを含むものを、次の①~④のうちから一つ選べ。

① 電池の放電では、化学エネルギーが電気エネルギーに変換される。

② 電池の放電時には、負極では還元反応が起こり、正極では酸化反応が起こる。

③ 電池の正極と負極との間に生じる電位差を、電池の起電力という。

④ 水素を燃料として用いる燃料電池では、発電時(放電時)に水が生成する。

(2020年度センター試験 本試験 化学基礎 第2問問5 より引用)

正解を見る

正解 2

1 〇 酸化還元反応で発生する化学エネルギーを電気エネルギーに変えるのが電池です。

2 × 電池の放電時には、負極で酸化反応が起こり電子が放出され、この電子が正極に移動して還元反応が起こります。

このとき電流は、正極から負極へと流れます。

3 〇 正しい記述です。

4 〇 水素を燃料とする燃料電池の反応では、水素と酸素から水が生成します。

負極の活物質に水素 H2 、正極の活物質に酸素 O2 が用いられます。

負極では H2 が電子を放出して H+ となります。この H+ が正極で酸素 O2 と還元反応をして、水 H2O が生成します。

負極の反応は  H2 → 2 H+ + 2 e  です。

正極の反応は  O2 + 4 H+ + 4 e → 2 H2O  です。

電池全体の反応は  2 H2 + O2 → 2 H2O  です。

実践問題2(2016本第2問問7)

電池に関する次の文章中の [ ア ] ~ [ ウ ] に当てはまる語の組合せとして正しいものを、下の①~⑧のうちから一つ選べ。

図 1 のように、導線でつないだ 2 種類の金属( A・B )を電解質の水溶液に浸して電池を作製する。このとき、一般にイオン化傾向の大きな金属は [ ア ] され、[ イ ] となって溶け出すので、電池の [ ウ ] となる。

(2016年度センター試験 本試験 化学基礎 第2問問7 より引用)

正解を見る

正解 6

イオン化傾向の大きな金属の方が、陽イオンとなりやすいです。陽イオンとなるとき、電子が失われており、酸化されています。

このように、イオン化傾向の大きな金属は酸化されて陽イオンとなり、水溶液中に溶け出します。

酸化反応で放出された電子は、導線を通ってイオン化傾向の小さな金属の方へ流れていき、水溶液中の電解質と還元反応を起こします。

電池では、酸化反応が起こり電子が流れ出る側が負極で、電子を受けて還元反応が起こる側が正極です。

実践問題3(2015追第2問問6)

電池に関する記述として下線部に誤りを含むものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。

① 導線から電子が流れこむ電極を、電池の正極という

② 電池の両極間の電位差を起電力という

③ 充電によって繰り返し使うことのできる電池を、二次電池という

④ ダニエル電池では、亜鉛よりイオン化傾向が小さい銅の電極が負極となる

⑤ 鉛蓄電池では、鉛と酸化鉛(Ⅳ)を電極に用いる

(2015年度センター試験 追試験 化学基礎 第2問問6 より引用)

正解を見る

正解 4

1 〇 電池の正極では、電子が流れ込んで還元反応が起こります。

2 〇 電池の両極の電位差が、電池の起電力です。

3 〇 充電によって繰り返し使える電池を、二次電池または蓄電池といいます。

4 × 電池の負極では、電子を失う酸化反応が起こります。

亜鉛 Zn と銅 Cu を電極にするダニエル電池では、イオン化傾向が大きく、陽イオンになりやすい Zn が電子を失います。

そのため、電子を失い陽イオンとなる Zn が負極に使われます。

イオン化傾向が小さい Cu は正極に使われます。

5 〇 鉛蓄電池では、正極が酸化鉛(Ⅳ) PbO2 、負極が鉛 Pb となります。

放電で起こる化学反応は以下の通りです。

正極では、次のような電子を受け取る還元反応が起こります。

PbO2 + 4 H+ + SO42- + 2 e → PbSO4 + 2 H2O

負極では、次のような電子を失う酸化反応が起こります。

Pb + SO42- → PbSO4 + 2 e

実践問題4(2018本第2問問7)

身のまわりの電池に関する記述として下線部に誤りを含むものを、次の①~④のうちから一つ選べ。

① アルカリマンガン乾電池は、正極に MnO2 、負極に Zn を用いた電池であり、日常的に広く使用されている。

② 鉛蓄電池は、電解液に希硫酸を用いた電池であり、自動車のバッテリーに使用されている。

③ 酸化銀電池(銀電池)は、正極に Ag2O を用いた電池であり、一定の電圧が長く持続するので、腕時計などに使用されている。

④ リチウムイオン電池は、負極に Li を含む黒鉛を用いた一次電池であり、軽量であるため、ノート型パソコンや携帯電話などの電子機器に使用されている。

(2018年度センター試験 本試験 化学基礎 第2問問7 より引用)

正解を見る

正解 4

1 〇 アルカリマンガン乾電池は、正極が酸化マンガン(Ⅳ) MnO2 、負極が亜鉛 Zn 、電解質水溶液が水酸化カリウム KOH です。

なおマンガン乾電池は、正極が酸化マンガン(Ⅳ) MnO2 、負極が亜鉛 Zn です。電解質水溶液は塩化亜鉛 ZnCl2 で少量の塩化アンモニウム NH4Cl が加えられている場合もあります。電解質水溶液はのり状になっています。

2 〇 鉛蓄電池は、正極が酸化鉛(Ⅳ) PbO2 、負極が鉛 Pb 、電解質水溶液が希硫酸 H2SO4 です。

3 〇 酸化銀電池は、正極が酸化銀 Ag2O 、負極が亜鉛 Zn 、電解質水溶液が水酸化カリウム KOH などである一次電池です。

4 × リチウムイオン電池は充電が可能な二次電池です。充電できない電池が一次電池です。

金属の反応性

ポイント

イオン化傾向が大きい金属は、空気中の酸素と容易に反応して酸化物になります。

イオン化傾向が大きい金属は、水と激しく反応します。

金属の反応性

空気中での反応

イオン化傾向が大きい金属は、電子を失って酸化され、陽イオンになりやすいです。一般に、イオン化傾向が大きい金属は容易に酸化されるので、反応性が高いといえます。

金属の単体を空気中に放置したとき、イオン化傾向が大きい金属は酸素と結びついて酸化されます。

リチウム Li からナトリウム Na までの金属は、常温で速やかに酸化され、酸化物となります。Li 、K 、Ca 、Na に限らず、アルカリ金属とアルカリ土類金属の元素は、空気中で速やかに酸化されます。

マグネシウム Mg から銅 Cu までの金属は、空気中でゆっくりと酸化され、酸化物が生じます。あるいは、空気中で加熱することで酸化されます。

水銀 Hg から金 Au までの金属は、一般に酸化されません。

まとめると以下の通りです。

水との反応

リチウム Li からナトリウム Na までの金属は、常温で水と激しく反応し、水素 H2 を発生します。

例えば Na では、電子を相手に与える還元剤としてはたらき、自身は酸化され陽イオンになります。

Na → Na+ + e  ‥‥(A)

水が電子を受け取り、H2 が発生します。

2 H2O + 2 e → H2 + 2 OH  ‥‥(B)

(A)(B)をまとめると、次のような化学反応式になります。

2 Na + 2 H2O → H2 + 2 NaOH

マグネシウム Mg は常温の水とは反応しませんが、熱水と反応して H2 を発生します。

アルミニウム Al から鉄 Fe までの金属は、高温の水蒸気とは反応して H2 を発生します。

例えば Al では、次のように高温の水蒸気と反応して、H2 を発生します。

2 Al + 3 H2O → Al2O3 + 3 H2

ニッケル Ni 以降の金属は、水と反応しません。以上をまとめると、以下の通りです。

問題演習

確認テスト1

次の性質を示す金属を考えましょう。

  1. 空気中で速やかに酸化される。
  2. 空気中で加熱すると酸化される。
  3. 空気中で酸化されない。
  4. 常温の水と激しく反応して、H2 を発生する。
  5. 熱水と反応して、H2 を発生する。
  6. 高温の水蒸気と反応して、H2 を発生する。
  7. 水とは反応しない。
正解を見る

1. Li K Ca Na

2. Mg Al Zn Fe Ni Sn Pb Cu

3. Hg Ag Pt Au

4. Li K Ca Na

5. Mg

6. Al Zn Fe

7. Ni Sn Pb Cu Hg Ag Pt Au

実践問題1(2017追第2問問3)

金属の Ag 、Al 、Ca 、Fe 、Li を、常温の水および希硫酸に対する反応性で分類した。その分類として最も適当なものを、次の①~⑧のうちから一つ選べ。

(2017年度センター試験 追試験 化学基礎 第2問問3 より引用)

正解を見る

正解 8

Ca と Li は反応性が高いので、常温の水と激しく反応して水素を発生します。希硫酸とも反応します。

Ca + 2 H2O → Ca(OH)2 + H2

2 Li + 2 H2O → 2 LiOH + H2

Al と Fe は希硫酸と反応して水素を発生します。

2 Al + 3 H2SO4 → Al2(SO4)3 + 3 H2

Fe + H2SO4 → FeSO4 + H2

Ag は常温の水や希硫酸とは反応しません。

実践問題2(2015追第2問問7)

金属の単体の反応に関する記述として誤りを含むものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。

① 銀は、希硫酸と反応して水素を発生する。

② カルシウムは、水と反応して水素を発生する。

③ 亜鉛は、塩酸と反応して水素を発生する。

④ スズは、希硫酸と反応して水素を発生する。

⑤ アルミニウムは、高温の水蒸気と反応して水素を発生する。

(2015年度センター試験 追試験 化学基礎 第2問問7 より引用)

正解を見る

正解 1

1 × 水素よりイオン化傾向が小さい金属は、酸化力がない希硫酸に溶けません。Ag は水素よりイオン化傾向が小さいので、希硫酸と反応しません。

2 〇 カルシウム Ca は常温の水と反応して

Ca + 2 H2O → Ca(OH)2 + H2

となり、水素が発生します。

3 〇 亜鉛 Zn は水素よりイオン化傾向が大きいので、酸と反応します。

亜鉛 Zn は塩酸 HCl と反応して、

Zn + 2 HCl → ZnCl2 + H2

となり、水素を発生します。

4 〇 スズ Sn は水素よりイオン化傾向が大きいので、酸と反応します。

スズ Sn は希硫酸 H2SO4 と反応して、

Sn + H2SO4 → SnSO4 + H2

となり、水素を発生します。

5 〇 アルミニウム Al は高温の水蒸気と反応して、

2 Al + 3 H2O → Al2O3 + 3 H2

となり、水素が発生します。

金属のイオン化傾向と酸との反応

ポイント

水溶液中で金属の単体が陽イオンになろうとする性質を、金属のイオン化傾向といいます。

陽イオンになりやすい(イオン化傾向の大きい)順に金属を並べたものを、イオン化列といいます。

水素よりイオン化傾向の大きな金属は、一般に酸に溶けて気体の H2 が発生します。

Al 、Fe 、Ni は表面に酸化被膜ができるため、酸化力のある濃硝酸や熱濃硫酸に溶けません。この状態を不動態といいます。

Cu 、Hg 、Ag は酸に溶けませんが、硝酸や熱濃硫酸のような酸化力のある酸には溶けます。

Pt 、Au は王水だけに溶けます。

イオン化傾向

水溶液中で金属の単体が電子を放出して陽イオンになろうとする性質を、金属のイオン化傾向といいます。

陽イオンになりやすい金属を、イオン化傾向が大きい金属といいます。

水溶液中に複数の金属の単体や金属イオンがあるとき、どのような反応をするか考えるのにイオン化傾向は役立ちます。

そこで各金属のあいだで、どちらがイオン化傾向が大きいかを比べると便利です。

陽イオンになりやすい(イオン化傾向の大きい)順に金属を並べたものを、イオン化列といいます。

イオン化傾向が大きい金属から、リチウム、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、鉛、(水素)、銅、水銀、銀、白金、金と並びます。

途中にある水素 H2 は金属でないものの、水溶液中にある水素イオン H+ と各金属のどちらが陽イオンになりやすいかを比べられるので、イオン化列に含んでいます。

イオン化列を覚えるのに、「リッチだな、かりるかな、まあ、あてにすんな、ひどすぎるしゃっきん」という、昔からある語呂合わせがとても有効です。

元素記号と、金属の名称の頭文字がだいたい合っているので、非常に覚えやすく実用的です。

では具体的に、金属のイオン化傾向で何がわかるか見てみましょう。

硫酸銅(Ⅱ)水溶液 CuSO4 に、亜鉛の板を入れたときの反応を考えましょう。

このとき水溶液中には、銅(Ⅱ)イオン Cu2+ と硫酸イオン SO42- 、亜鉛の単体 Zn が存在しています。さらにこの水溶液は弱酸性なので、水素イオン H+ や水酸化物イオン OH もあります。

反応で重要なのは Cu2+ と Zn です。

銅 Cu と亜鉛 Zn のイオン化傾向を比べると、Zn のイオン化傾向がより大きいです。そのため、Zn の方が陽イオンになりやすいです。

はじめの水溶液では、Cu が陽イオン Cu2+ であり、Zn は金属の単体として存在しています。そこで、Cu が金属の単体になり、Zn が陽イオンの Zn2+ になるという反応が起こります。

Zn の板は CuSO4 水溶液中で溶けて、亜鉛イオン Zn2+ になります。これは電子を失うので、酸化反応です。

Zn → Zn2+ + 2 e

逆に水溶液中の銅イオン Cu2+ は、イオン化傾向がより大きい Zn が陽イオンになるので、Zn から電子を受け取って Cu になります。

Cu は Zn の板の表面に、固体として付着します。Cu2+ が電子を受け取るので、還元反応です。

Cu2+ + 2 e → Cu

イオン化傾向と酸との反応

イオン化傾向が大きい金属は、電子を失いやすく酸化されやすい性質です。イオン化傾向が大きい方が、反応性が大きいといえます。

そこで、イオン化列を見ながら、酸との反応性を考えます。

イオン化列では、鉛 Pb と銅 Cu のあいだに水素 H2 が入っています。

これより、Pb から Li までのイオン化傾向が大きい金属は、H より陽イオンになりやすいと考えられます。

つまり Pb から Li までの金属は、酸である水素イオン H+ が同じ水溶液に存在したとき、H+ に電子を与えて自分が陽イオンになります

そこで(少し例外はあるものの)、一般に、イオン化傾向が Li から Pb までの金属は、酸に溶けるといえます。

逆に H2 よりイオン化傾向が小さい Cu から Au までの金属は、酸である水素イオン H+ が同じ水溶液に存在しても、陽イオンにはなりません。

そこで(少し例外はあるものの)、一般に、イオン化傾向が Cu から Au までの金属は、酸に溶けないといえます。

酸に溶けると水素 H2 が発生

H2 よりイオン化傾向が大きい金属が酸に溶ける場合、H+ に電子を与えて酸化されるという反応が起こります。

そのため、金属が溶けて発生する気体は水素 H2 です。

例えば、アルミニウム Al が塩酸に溶けたとき、水素 H2 が発生します。Al が電子を放出して陽イオンとなり、H+ が電子を受け取って気体の H2 になります。

Al → Al3+ + 3 e

2 H+ + 2 e → H2

両式をまとめて整理すると

2 Al + 6 H+ → 2 Al3+ + 3 H2

塩酸に溶かしているので、化学反応式を完成させると以下のようになります。

2 Al + 6 HCl → 2 AlCl3 + 3 H2

Al、Fe、Ni は不動態をつくる

H2 よりイオン化傾向の大きい金属は酸に溶けます。しかし例外として、アルミニウム Al と鉄 Fe 、ニッケル Ni は、濃硝酸や熱濃硫酸には溶けません

濃硝酸や熱濃硫酸は酸化力が強いので、Al 、Fe 、Ni と接触すると、金属表面に緻密な酸化被膜が生じます。そのため、それ以上反応が進まなくなり、表面が酸化されるだけで溶けません。

このように、表面に酸化物の被膜ができて、内部の金属が保護される状態を不動態といいます

酸化力のある酸に溶ける

H2 よりイオン化傾向の小さい金属は酸に溶けません。しかし例外として、銅 Cu と水銀 Hg 、銀 Ag は、硝酸や熱濃硫酸のような酸化力のある酸に溶けます

またこのとき、金属が溶けても発生する気体は H2 ではありません。Cu や Hg 、Ag が溶ける反応は酸化還元反応です。

そのため発生する気体は、酸化剤である酸の半反応式で発生する気体になります。

詳しくは「化学基礎 半反応式」の項目を参照してください。反応した酸が希硝酸ならば発生する気体は一酸化窒素 NO 、濃硝酸ならば二酸化窒素 NO2 、熱濃硫酸ならば二酸化硫黄 SO2 です

復習として、Cu を熱濃硫酸 H2SO4 で溶かしてみましょう。

Cu が電子を放出して陽イオンとなるときの半反応式は、

Cu → Cu2+ + 2 e

熱濃硫酸が酸化剤となるときの半反応式は、

H2SO4 + 2 H+ + 2 e → SO2 + 2 H2O

2 つの半反応式を足し合わせると電子が消去できるので、

Cu + H2SO4 + 2 H+ → Cu2+ + SO2 + 2 H2O  ‥‥(*)

(*)式の両辺に 1 個の SO42- を加えると、酸化還元反応式が完成します。

Cu + 2 H2SO4 → CuSO4 + SO2 + 2 H2O

以上のように、Cu は酸化力のある酸である、熱濃硫酸に溶けます。溶けたときに発生する気体は SO2 です。

王水に溶ける

白金 Pt と金 Au は、王水に溶けます。

王水は、濃硝酸と濃塩酸を体積比 1:3 で混合した、非常に酸化力の強い酸です。

イオン化傾向と酸との反応のまとめは、以下の通りです。

問題演習

確認テスト1

次の図は、金属をイオン化傾向の大きい順に並べたイオン化列です。

1. ア~エに入る金属名を考えましょう。

2. 次の文章は、ア~エの金属の特徴を記しています。どの金属に当てはまるか考えましょう。

A. 塩酸には溶けないが、濃硝酸には溶ける。

B. 塩酸には溶けるが、濃硝酸には溶けない。

C. 塩酸に溶けて、気体の H2 が発生する。

D. 酸には溶けないが、王水だけには溶ける。

正解を見る

1. ア:亜鉛 Zn   イ:ニッケル Ni   ウ:銅 Cu   エ:金 Au

2. A:Cu   B:Ni   C:Zn   D:Au

確認テスト2

亜鉛 Zn を塩酸に入れると、気体を発生させながら溶けます。この化学反応式を考えましょう。

正解を見る

Zn は H よりイオン化傾向が大きいので、塩酸に溶けて陽イオンになります。

Zn → Zn2+ + 2 e  ‥‥(A)

塩酸の水素イオン H+ は電子を受け取り、気体の水素 H2 となります。

2 H+ + 2 e → H2  ‥‥(B)

(A)と(B)を足し合わせると、電子が消去できます。

Zn + 2 H+ → Zn2+ + H2

塩酸の塩化物イオン Cl を、両辺に 2 個ずつ加えると、化学反応式は完成です。

Zn + 2 HCl → ZnCl2 + H2

確認テスト3

銅 Cu を希硝酸に入れると、気体を発生させながら溶けます。この化学反応式を考えましょう。

正解を見る

Cu が電子を放出して陽イオンとなるときの半反応式は、

Cu → Cu2+ + 2 e  ‥‥(C)

希硝酸が酸化剤となるときの半反応式は、

HNO3 + 3 H+ + 3 e → NO + 2 H2O  ‥‥(D)

(C) × 3 と (D) × 2 を足し合わせると、電子が消去できます。

3 Cu + 2 HNO3 + 6 H+ → 3 Cu2+ + 2 NO + 4 H2O  ‥‥(E)

(E)式の両辺に 6 個の NO3 を加えると、酸化還元反応式が完成します。

3 Cu + 2 HNO3 + 6 HNO3 → 3 Cu(NO3)2 + 2 NO + 4 H2O

整理して

3 Cu + 8 HNO3 → 3 Cu(NO3)2 + 2 NO + 4 H2O

以上のように、Cu は希硝酸に溶けます。溶けたときに発生する気体は NO です。

実践問題1(2018追第2問問7)

金属 A と金属 B は、Au 、Cu 、Zn のいずれかである。AB の金属板の表面をよく磨いて、金属イオンを含む水溶液にそれぞれ浸した。金属板の表面を観察したところ、表 1 のようになった。AB の組合せとして最も適当なものを、下の①~⑥のうちから一つ選べ。ただし、金属をイオン化傾向の大きな順に並べた金属のイオン化列は、

Zn > Sn > Pb > Cu > Ag > Au

である。

(2018年度センター試験 追試験 化学基礎 第2問問7 より引用)

正解を見る

正解 6

イオン化傾向の大きい金属は、水溶液中で陽イオンとなりやすいです。

イオン化傾向の大きな金属の板を、それよりイオン化傾向の小さい金属イオンが含まれる溶液に浸すと、イオン化傾向の大きな金属が溶けてイオンとなり溶液中に拡散します。

このとき金属が溶けて陽イオンとなるので、そのとき放出された電子を受け取って、水溶液中のイオン化傾向の小さい金属イオンが金属として析出します。

金属 A の板を水溶液に浸すと、Cu2+ 、Pb2+ 、Sn2+ 、いずれの陽イオンも析出しています。そこで、金属 A はそれらよりイオン化傾向の大きい Zn とわかります。

金属 B の板を水溶液に浸すと、Ag+ イオンが金属として析出し、Pb2+ と Sn2+ の 2 つのイオンは金属として析出しませんでした。

これより、金属 B は Pb と Sn よりイオン化傾向は小さく、Ag よりはイオン化傾向が大きいことがわかります。以上より、金属 B は Cu です。

実践問題2(2020本第2問問6)

金属の溶解を伴う反応に関する記述として正しいものを、次の①~④のうちから一つ選べ。

① 硝酸銀水溶液に鉄くぎを入れると、鉄が溶け、銀が析出する。

② 硫酸銅(Ⅱ)水溶液に亜鉛板を入れると、亜鉛が溶け、水素が発生する。

③ 希硝酸に銅板を入れると、銅が溶け、水素が発生する。

④ 濃硝酸にアルミニウム板を入れると、アルミニウム板が溶け続ける。

(2020年度センター試験 本試験 化学基礎 第2問問6 より引用)

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正解 1

イオン化傾向の大きさと、溶液の性質(酸化力)を見て判断します。

1 〇 硝酸銀 AgNO3 水溶液には、銀イオン Ag+ と硝酸イオン NO3 が存在します。

鉄 Fe は銀 Ag よりもイオン化傾向が大きいので、鉄が溶けて陽イオンとなり、陽イオンだった銀が析出します。

2 Ag+ + Fe → 2 Ag + Fe2+

2 × 硫酸銅(Ⅱ) CuSO4 水溶液には、銅イオン Cu2+ と硫酸イオン SO42- が存在します。

水溶液中には水素イオン H+ も存在しますが、H と Cu では Cu の方がイオン化傾向が小さいので、H+ は陽イオンのままで水溶液中に残ります。

そのため、H+ が電子を受け取って、水素が発生することはありません。

亜鉛が溶けて、水素よりイオン化傾向の小さい銅イオン Cu2+ が電子を受け取り析出します。

Zn + Cu2+ → Zn2+ + Cu

3 × 希硝酸は酸化力が強いので銅を溶かします。

希硝酸と銅の半反応式は以下の通りです。

HNO3 + 3 H+ + 3 e  →  NO + 2 H2O

Cu  →  Cu2+ + 2 e

この 2 つの半反応式から電子を消去して整理すると、

3 Cu + 8 HNO3  → 3 Cu(NO3)2 + 2 NO + 4 H2O

反応式からわかるように、水素は発生せず、一酸化窒素が発生します。

4 × アルミニウムは濃硝酸に溶けますが、溶け始めると表面が酸化被膜で覆われます(不動態)。

酸化被膜は濃硝酸に溶けないので、アルミニウム板が溶け続けることはありません。

実践問題3(2016追第2問問7)

金属および金属イオンの反応性に関する記述として誤りを含むものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。

① 硫酸銅(Ⅱ)水溶液に亜鉛を浸すと銅が析出する。

② 塩化マグネシウム水溶液に鉄を浸すとマグネシウムが析出する。

③ 硝酸銀水溶液に銅を浸すと銀が析出する。

④ 塩酸に亜鉛を浸すと水素が発生する。

⑤ 白金は王水に溶ける。

(2016年度センター試験 追試験 化学基礎 第2問問7 より引用)

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正解 2

1 〇 イオン化傾向は銅 Cu より亜鉛 Zn の方が大きく、Zn は陽イオンになりやすいです。Zn が溶けて電子を放出し、Cu2+ イオンが電子を受け取り析出します。

2 × 塩化マグネシウム MgCl2 水溶液には、マグネシウムイオン Mg2+ と塩化物イオン Cl が存在します。

イオン化傾向は鉄 Fe よりマグネシウム Mg の方が大きく、Mg は陽イオンになりやすいです。そのため Fe は溶けず、Mg2+ は陽イオンのままです。

3 〇 イオン化傾向は銀 Ag より銅 Cu の方が大きく、Cu は陽イオンになりやすいです。Cu は溶けて電子を放出し、Ag+ イオンが電子を受け取り析出します。

4 〇 亜鉛 Zn は塩酸に溶け、陽イオンとなります。放出された電子を塩酸の水素イオン H+ が受け取り、水素 H2 が発生します。

Zn + 2 HCl → ZnCl2 + H2

5 〇 白金 Pt は濃塩酸と濃硝酸の混合物である王水に溶けます。

酸化還元反応の量的関係

ポイント

酸化還元反応を利用した滴定操作を、酸化還元滴定といいます。

過マンガン酸カリウム KMnO4 を酸化剤として使うと、溶液の色の変化から酸化還元反応の完了を知ることができます。

酸化還元反応では、酸化剤の受け取った電子の物質量と還元剤の失った電子の物質量が等しいです。

酸化還元滴定

酸化還元反応では、酸化によって失われる電子の数と、還元によって受け取る電子の数が等しくなります。

この性質を利用すると、濃度のわからない酸化剤や還元剤の溶液について、滴定の操作を行って濃度を測定することができます

具体的には、濃度不明な酸化剤(または還元剤)の溶液を、正確な濃度がわかっている還元剤(または酸化剤)で滴定します。

そして、酸化還元反応に使われた酸化剤と還元剤の溶液の体積を正確に量ると、求めたい溶液の濃度が計算できます。

実際の滴定操作は、中和滴定実験と同じように行います。

MnO4 と Mn2+

酸化還元滴定では、過マンガン酸カリウム水溶液がよく使われます。

その理由は、酸化還元反応が終了すると溶液の色が変化するので、反応が完了した時点を目で確認できるからです。

過マンガン酸イオン MnO4 は、水溶液中で赤紫色を示します。一方のマンガン(Ⅱ)イオン Mn2+ の水溶液は、ほぼ無色です。この違いを利用します。

酸化還元滴定において、ビュレットから MnO4 の入った溶液を、還元剤の入ったコニカルビーカーに滴下します。

このとき、ビュレット内は MnO4 の赤紫色です。しかし、コニカルビーカー内は還元剤によって MnO4 が Mn2+ に還元されるので無色です。

酸化還元滴定を始めてからしばらくのあいだは、ビュレット内は赤紫色ですが、コニカルビーカー内は無色の状態が続きます。

それが酸化還元反応が終わった時点で、コニカルビーカーに MnO4 を滴下しても還元されなくなります。その時点を過ぎてさらに滴下すると、コニカルビーカー内は MnO4 の赤紫色に変化します。

つまり、過マンガン酸カリウム水溶液をビュレットから滴下して、還元剤を入れたコニカルビーカーの溶液が無色から赤紫色に変わり始めたときが、酸化還元反応の完了したときです。

このとき、ビュレットの目盛りを読み取ることで、求めたい溶液の濃度を計算できます。

酸化還元反応の量的関係

酸化還元反応を考えるために、半反応式や酸化還元反応式を書けるように学んできました。学習した目的のひとつは、酸化剤と還元剤が反応する物質量の比を正確に知るためです。

酸化剤と還元剤がいくつの物質量の比で反応するのかわかれば、酸化還元滴定によってこれらの濃度を正確に計算できます。

酸化剤と還元剤が直接どれだけの物質量の比で反応するか考え、計算することができます。

または、酸化剤が受け取る電子の物質量と、還元剤が失う電子の物質量が等しくなることを利用して計算することもできます

過酸化水素と過マンガン酸カリウムの反応を例にして、練習してみましょう。

物質量の比で考える

例題

 濃度不明の過酸化水素水 10.0 mL をコニカルビーカーにとり、希硫酸を加えたのち、0.10 mol/L 過マンガン酸カリウム水溶液をビュレットから滴下すると、6.0 mL 滴下したところで赤紫色が消えなくなった。過酸化水素水のモル濃度(X mol/L )を求めよ。 

まずは、酸化剤である過マンガン酸カリウム KMnO4 と還元剤 H2O2 の半反応式を書きます。

MnO4 + 8 H+ + 5 e → Mn2+ + 4 H2O  ‥‥(A)

H2O2 → O2 + 2 H+ + 2 e  ‥‥(B)

(A)式を 2 倍、(B)式を 5 倍して、両式を足し合わせると電子が消せます。

2 MnO4 + 16 H+ + 10 e → 2 Mn2+ + 8 H2O

5 H2O2 → 5 O2 + 10 H+ + 10 e

足し合わせると

2 MnO4 + 6 H+ + 5 H2O2 → 2 Mn2+ + 8 H2O + 5 O2  ‥‥(C)

(C)式は酸化還元反応式まで至っていませんが、この段階でも滴定の計算はできます。

MnO4 が 2 モルと、H2O2 が 5 モルの比で反応することがわかります。つまり、過マンガン酸カリウム 2 モルと過酸化水素 5 モルが反応します。

過酸化水素の物質量は、過マンガン酸カリウムの物質量の\(\frac{5}{2}\)倍になるので、

$$0.10 mol/L × \frac{6.0 mL}{1000 mL} × \frac{5}{2} = X mol/L × \frac{10.0 mL}{1000 mL}$$

これを解くと X = 0.15 mol/L となります。

電子の物質量を合わせる

先ほどの例題を、電子の物質量を合わせることで解いてみましょう。

酸化剤が受け取る電子の物質量と、還元剤が失う電子の物質量が等しくなったときに、酸化還元反応が完了します。

こちらの解き方では、2 つの半反応式から解けます。

MnO4 + 8 H+ + 5 e → Mn2+ + 4 H2O  ‥‥(A)

H2O2 → O2 + 2 H+ + 2 e  ‥‥(B)

(A)の半反応式から、過マンガン酸カリウムが 1 モルあると、電子を 5 モル受け取ることがわかります。

(B)の半反応式から、過酸化水素が 1 モルあると、電子を 2 モル失うことがわかります。

過マンガン酸カリウムが受け取る電子の物質量と、過酸化酸素が失う電子の物質量が等しくなるので

$$0.10 mol/L × \frac{6.0 mL}{1000 mL} × 5 = X mol/L × \frac{10.0 mL}{1000 mL} × 2$$

これを解くと X = 0.15 mol/L となります。

問題演習

確認テスト1

濃度不明のシュウ酸水溶液 10.0 mL をコニカルビーカーにとり、希硫酸を加えたのち、0.10 mol/L 過マンガン酸カリウム水溶液をビュレットから滴下すると、8.0 mL 滴下したところで赤紫色が消えなくなった。

シュウ酸水溶液のモル濃度( X mol/L )を求めましょう。

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まずは、酸化剤である過マンガン酸カリウム KMnO4 と、還元剤であるシュウ酸 (COOH)2 の半反応式を書きます。

MnO4 + 8 H+ + 5 e → Mn2+ + 4 H2O  ‥‥(A)

(COOH)2 → 2 CO2 + 2 H+ + 2 e  ‥‥(B)

(A)式を 2 倍、(B)式を 5 倍して、両式を足し合わせると電子が消せます。

2 MnO4 + 16 H+ + 10 e → 2 Mn2+ + 8 H2O

5 (COOH)2 → 10 CO2 + 10 H+ + 10 e

足し合わせると

2 MnO4 + 6 H+ + 5 (COOH)2 → 2 Mn2+ + 8 H2O + 10 CO2  ‥‥(C)

(C)式は酸化還元反応式まで至っていませんが、この段階でも滴定の計算はできます。

MnO4 が 2 モルと、(COOH)2 が 5 モルの比で反応することがわかります。つまり、過マンガン酸カリウム 2 モルとシュウ酸 5 モルが反応します。

シュウ酸の物質量は、過マンガン酸カリウムの物質量の\(\frac{5}{2}\)倍になるので、

$$0.10 mol/L × \frac{8.0 mL}{1000 mL} × \frac{5}{2} = X mol/L × \frac{10.0 mL}{1000 mL}$$

これを解くと X = 0.20 mol/L となります。

別の解き方として、受け渡される電子の物質量を合わせてみましょう。

酸化剤が受け取る電子の物質量と、還元剤が失う電子の物質量が等しくなったときに、酸化還元反応が完了します。

こちらの解き方では、2 つの半反応式から解けます。

MnO4 + 8 H+ + 5 e → Mn2+ + 4 H2O  ‥‥(A)

(COOH)2 → 2 CO2 + 2 H+ + 2 e  ‥‥(B)

(A)の半反応式から、過マンガン酸カリウムが 1 モルあると、電子を 5 モル受け取ることがわかります。

(B)の半反応式から、シュウ酸が 1 モルあると、電子を 2 モル失うことがわかります。

過マンガン酸カリウムが受け取る電子の物質量と、シュウ酸が失う電子の物質量が等しくなるので

$$0.10 mol/L × \frac{8.0 mL}{1000 mL} × 5 = X mol/L × \frac{10.0 mL}{1000 mL} × 2$$

これを解くと X = 0.20 mol/L となります。

実践問題1(2018追第2問問4)

過マンガン酸カリウム KMnO4 と過酸化水素 H2O2 の酸化剤あるいは還元剤としてのはたらきは、電子を含む次のイオン反応式で表される。

MnO4 + 8 H+ + 5 e  →  Mn2+ + 4 H2O   (1)

H2O2  →  O2 + 2 H+ + 2 e           (2)

過酸化水素 x [ mol ] を含む硫酸酸性水溶液に過マンガン酸カリウム水溶液を加えたところ、酸素が発生した。この反応における加えた過マンガン酸カリウムの物質量と、未反応の過酸化水素の物質量との関係は、図 1 のようになった。次の問い( ab )に答えよ。

a 反応式 (2) における酸素原子の酸化数の変化として正しいものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。

① 2 減る。    ② 1 減る。    ③ 変化しない。

④ 1 増える。    ⑤ 2 増える。

b 反応前の過酸化水素の物質量 x は何 mol か。最も適当な数値を、次の①~⑥のうちから一つ選べ。

(①~⑥の数値の単位は mol )

① 0.010    ② 0.025    ③ 0.040

④ 0.25    ⑤ 0.40    ⑥ 1.0

(2018年度センター試験 追試験 化学基礎 第2問問4 より引用)

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正解 a 4     b 4

a

酸化数は -1 から 0 へと変化します。

H2O2 では H の酸化数 が +1 で、O の酸化数は -1 、H2O2 全体の酸化数は 0 です。

(過酸化水素 H2O2 の酸素原子の酸化数は、-2 ではなく例外的に -1 です。)

O2 は単体なので、分子全体では酸化数は 0 。したがって O の酸化数は 0 です。

b

2つの半反応式の両辺を加えて、反応式を導きます。

(1)式 × 2 + (2)式 × 5 より

2 MnO4 + 5 H2O2 + 6 H+  →  2 Mn2+ + 5 O2 + 8 H2O

グラフより、過マンガン酸カリウムが 0.10 mol あるときに反応が完了しています。

過マンガン酸イオン 2 mol と過酸化水素 5 mol が反応するので、過マンガン酸カリウム 0.10 mol と反応する過酸化水素は

0.10[mol] × \(\frac{5}{2}\) = 0.25[mol]

したがって、反応前の過酸化水素の物質量 x は 0.25 mol です。

実践問題2(2017追第2問問7)

十分な量のヨウ化カリウム KI の水溶液に、硫酸酸性の過酸化水素 H2O2 の水溶液を加えて酸化すると、ヨウ素 I2 が生成した。消費した H2O2 の質量と生成した I2 の物質量の関係を表す直線として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。

必要があれば、原子量は次の値を使うこと。

H 1.0    O 16

(2017年度センター試験 追試験 化学基礎 第2問問7 より引用)

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正解 4

ヨウ化カリウム KI 中のヨウ化物イオン I は還元剤としてはたらき、ヨウ素 I2 になります。

過酸化水素 H2O2 は酸化剤としてはたらき、還元されて水 H2O になります。

これらの酸化還元反応の半反応式は

2 I → I2 + 2 e

H2O2 + 2 H+ + 2 e → 2 H2O

となります。

上の 2 式を加えて e を消去すると

2 I + H2O2 + 2 H+  →  I2 + 2 H2O

水溶液中にはカリウムイオン K+ と硫酸イオン SO42- があるので、これらを使って電気的に中性にできます。

両辺に 2 K+ と SO42- を加えて整理すると、反応式が完成します。

2 KI + H2O2 + H2SO4  →  I2 + K2SO4 + 2 H2O

この反応式(イオン反応式の段階でもわかります)から、H2O2 1 mol が反応すると I2 が 1 mol 生成することがわかります。

H2O2 の分子量は 1.0 × 2 + 16 × 2 = 34 です。

例えば、生成した I2 が 0.01 mol ならば、H2O2 の消費量は

34[g/mol] × 0.01[mol] = 0.34[g]

となり、この結果は④のグラフと一致します。

実践問題3(2020追第2問問5)

MnO2 と HCl から、MnCl2 、Cl2 および H2O が生成する反応で、 0.25 mol の Cl2 が生成したとき、Mn が受け取る電子は何 mol か。最も適当な数値を、次の①~⑥のうちから一つ選べ。

(①~⑥の数値の単位は mol )

① 0.25   ② 0.50   ③ 1.0   ④ 2.0   ⑤ 4.0   ⑥ 6.0

(2020年度センター試験 追試験 化学基礎 第2問問5 より引用)

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正解 2

半反応式は次の通りです。

MnO2 + 4 H+ + 2 e → Mn2+ + 2 H2O

2 Cl → Cl2 + 2 e

この 2 式を加えると

MnO2 + 2 Cl + 4 H+  →  Mn2+ + 2 H2O + Cl2

2Cl を両辺に加えて反応式を完成させると

MnO2 + 4 HCl  →  MnCl2 + 2 H2O + Cl2

この酸化還元反応では、Mn 1 mol と電子 2 mol 、また Cl2 1 mol と電子 2 mol が反応しています。

そこで、0.25 mol の Cl2 が発生したとき、 Mn が受け取る電子は 0.50 mol です。

実践問題4(2018試第2問問3)

清涼飲料水の中には、酸化防止剤としてビタミン C(アスコルビン酸)C6H8O6 が添加されているものがある。ビタミン C は酸素 O2 と反応することで、清涼飲料水中の成分の酸化を防ぐ。このときビタミン C および酸素の反応は、次のように表される。

ビタミン C と酸素が過不足なく反応したときの、反応したビタミン C の物質量と、反応した酸素の物質量の関係を表す直線として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。

(第2回 共通テスト試行調査 化学基礎 第2問問3 より引用)

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正解 4

問題で与えられた2つの半反応式について

C6H8O6  → C6H6O6 + 2 H+ + 2 e  ‥‥(1)

O2 + 4 H+ + 4 e → 2 H2O  ‥‥(2)

(1) × 2 + (2) を計算して電子を消去します。

2 C6H8O6 + O2 → 2 C6H6O6 + 2 H2O

となるので、2 mol のビタミン C と 1 mol の酸素が反応することがわかります。

グラフ④では 1.0 mol のビタミン C と 0.5 mol の酸素が反応しているので、反応の比率が該当します。

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